休耕田で外来植物を刈り取る住民有志=龍郷町大勝
7月上旬、龍郷町大勝の休耕田で、住民有志が汗だくになって雑草を刈り取った。外来植物ナガエツルノゲイトウ。腰の高さまで生い茂り、一帯を覆う。水田復活を計画していた住民に環境省が駆除を持ち掛けると、25人が集まった。
「外来種なんて昔は聞いたことも、考えたこともなかった」と参加した80代の男性。だが、繁茂することで在来植物の生息を脅かす。有志は「島の自然を自分たちで守りたい」と、今後も駆除を続けていくことにした。
徳之島で希少動植物の保護活動をするNPO法人「徳之島虹の会」の松村博光副理事長(74)は、住民の自然保護への関心が高まっていると実感している。年に数回実施する林道や海岸の清掃活動の参加者は、10年前は10人程度だったが、今では300人にまで増えたからだ。
環境省奄美野生生物保護センターの後藤雅文・離島希少種保全専門官も「外来種駆除など何かできることはないかとの問い合わせがこの2、3年で増えてきた」と意識の変化を喜ぶ。
■開発を最優先
「奄美・沖縄」が世界自然遺産の候補地に選ばれた2003年当時、島の自然の価値を高く評価する声は一部にとどまり、遺産登録は現実離れしているとの見方が大半だった。
戦後の奄美は、自然を切り売りしてきたからだ。採石や伐採、道路工事で山を切り開き、海岸には護岸や港湾が次々と整備された。
開発を後押ししたのが、奄美群島が日本に復帰した翌年の1954(昭和29)年に制定された奄美群島振興開発特別措置法(奄振法)。本土との格差是正のため、公共事業の国庫補助率などが優遇され、ハード整備が最優先された。自然保護は開発による地域振興を妨げるものとみなされ、後回しにされた。
近年は開発も一巡し、奄振事業も輸送コスト支援などのソフト面を重視する。
鹿児島県は2019年度、公共工事で外来植物を駆除すると成績評価に加点する制度を全国で初めて導入した。奄美市の建設会社社長は「昔は木をなぎ倒しながら山に道路を造るのが当たり前だった。今は環境への配慮なしに工事はできない」と語る。
■持続的発展へ
40年間、希少野生生物の保護活動を続け、行政や土木業者から異端児扱いされたこともあったという奄美市の自然写真家、常田守さん(68)は「これからは保全こそが島の持続的発展につながるという考えが必要」と強調する。
自然遺産の本来の目的である保全を続けることで、島の魅力は未来に引き継がれ、貴重な自然やそこに暮らす人々の文化にふれようと来島者が増える。一過性ではなく、補助金頼みでもない経済発展が可能と考えている。
犬や猫の放し飼いやごみの不法投棄など課題を抱えながらも、着実に高まる島民の保護意識。奄美は今、一丸となって保全と地域振興の両立を目指すスタートラインに立っている。