「畳堤に込めた先人たちの思いを残したい」と語る岡田光直副会長=延岡市
大雨、台風、火山、地震-。災害の記憶や教訓を後世に伝えたい、と建てられた碑がある。南日本新聞、宮崎日日新聞、熊本日日新聞、西日本新聞の九州4紙による「災害伝承碑」についてのアンケートでは、認知度があまり高くない実情が浮かんだ。碑を防災にどう生かしていけばいいのか。今年は桜島の大正噴火から110年、14日は震度7を観測した2016年の熊本地震前震から8年。
宮崎県北部の延岡市中心部の河口では五ケ瀬川や大瀬川、祝子川、北川が合流する。最も水位が上がりやすい五ケ瀬川沿いには、水害から住民を守るために設置された「畳堤」と呼ばれる特殊な堤防が残る。
保存に取り組む「五ケ瀬川の畳堤を守る会」(奴田原君枝会長)によると、堤防は大正末期~昭和初期ごろに完成したとみられる。コンクリート製で高さ約60センチ、厚さ約30センチ。扇状の穴が空いている。増水時に幅7センチの隙間に畳を差し込み、穴をふさげば堤防になる。
現在は両岸に約980メートルが残っているが、かつて総延長は2キロあったという。約千枚の畳が必要なため住民たちが団結して畳を運び、避難までの時間稼ぎに活用してきたとみられる。
先人の知恵を伝承しようと、同会は2016年に畳を差し込む住民の様子を再現した石像を設置。岡田光直副会長は「畳堤からは先人たちの自助共助への思いが伝わってくる。後世に残していきたい」と石像に込めた思いを語る。近くには畳堤の由来を伝える石碑もある。
石像の周辺を含めた市中心部は洪水で浸水するリスクがあり、危険が迫った場合はいち早く避難しなければならない。現在、畳堤は使われていないものの、同会は現地や市内の小中学校などで歴史を伝え、防災意識の向上につなげている。
奴田原会長は「災害を人ごととして捉えることなく、備える必要性を伝えていきたい」と話している。(宮崎日日新聞)
■災害伝承碑 国土地理院は2019年6月、過去の津波や洪水、土砂災害などを伝える自然災害伝承碑の地図記号の使用を開始した。今年3月28日時点で全国に2099基あり、市区町村からの申請を受けておおむね月に1回、追加。ウェブサイトで公開している。九州7県では221基が登録されており、内訳は福岡18、佐賀41、長崎27、熊本72、大分21、宮崎13、鹿児島29。