「観光公害」を防げ 迷惑行為に悩む南蔵院が訪日客から拝観料を徴収 収入は警備、清掃費に(西日本新聞)

2025/07/06 06:00
拝観料徴収と、禁止行為を案内する外国人向けの看板=5月19日、福岡県篠栗町の南蔵院
拝観料徴収と、禁止行為を案内する外国人向けの看板=5月19日、福岡県篠栗町の南蔵院
 全長41メートルの釈迦涅槃(しゃかねはん)像で知られる福岡県篠栗町の寺院「南蔵院」が今月、外国人旅行者に限って300円の拝観料徴収を始めた。日本人のほか、仕事などで長期滞在する外国人は無料のまま。境内で花火や飲酒といった迷惑行為に興じる外国人が目立ち、静かに参拝する環境をつくるために必要だと判断した。清掃や警備の費用に充てる。オーバーツーリズム(観光公害)対策で、インバウンド(訪日客)と国内客の価格を別にする二重価格を導入するのは、九州では珍しい。

 南蔵院によると、外国人の拝観者は新型コロナ禍後に急増。平日は来訪者の7割程度、年始は9割超を占めると推計される。

 増加に伴い、外国人によるごみやマナー違反が目立ち始めた。トイレで紙を流さない▽ごみを放置する▽狭い参道で動画を撮りながら歩く▽ドローンを飛ばして撮影する▽スケートボードで走り回る▽飲酒や花火、ダンスをする…。

 南蔵院は対応に苦慮してきた。禁止行為を伝える看板を増やし、涅槃像周辺の夜間立ち入りを制限。注意した職員が暴言を吐かれることも珍しくなく、警備や清掃の負担が増大した。2年前には、大型バスで訪れる外国人団体旅行者が多いことから、団体客限定で1人200円の拝観料を新設。ただ、日本人からも徴収した。

 新たに外国人から拝観料を取るのは、涅槃像などがある区域。入り口で払ってもらい、窓口などに警備員4人が常駐する。18歳以下は徴収しない。日本人団体客の拝観料は廃止した。

 「最低限のルールは守ってほしい。境内の雰囲気が壊れるのが一番怖い」と林覚乗住職(72)は話す。「国策でインバウンドを増やそうとするなら、行政はマナーの周知にも責任を持つべきだ」とも訴える。

   ◇    ◇

 訪日客に割高な二重価格は、外国人差別と指摘される懸念もある。九州7県の観光担当部署によると、日本人と外国人で二重価格を設けた例は、いずれも「把握していない」としている。

 兵庫県姫路市では清元秀泰市長が昨年、世界文化遺産の姫路城を巡り「多くの人が上ると天守閣が傷む」として、増え続ける外国人の入場料を約4倍に引き上げる構想に言及。「城のイメージを下げる」などの慎重意見が市議会で出て、市外の18歳以上を現行の千円から2500円に値上げする半面、市民は据え置く方針に転換した。

 林住職によると、南蔵院が長期滞在の外国人を無料にしたのは、拝観料徴収が差別と受け取られるのを避ける狙いがある。「外国人が国内客より高い施設は海外ではよくあり、差別とは考えていない」と話す。

 境内を訪れた外国人旅行者に取材すると、問題視する人はおらず「外国人だからこそ受けられる鉄道の割引や免税などの恩恵もあり、全く気にならない」(英国の33歳男性)、「300円なら安い」(カナダの27歳女性)、「寺を維持するためには必要。母国でも一般的だ」(タイの56歳男性)と好意的だった。

 南蔵院によると、有料と知って入場をやめた外国人はいたという。(仲山美葵)

(西日本新聞 2025年5月30日掲載)
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