掘り起こした安納いものつるを切る農業体験の参加者=2024年11月13日、中種子町野間
鹿児島県・種子島の基幹産業といえる農業が危機に直面している。他業種に比べ、就業人口の減少率は際立って大きい。高齢化や担い手不足といった全国共通の問題に加え、西之表市馬毛島の自衛隊基地整備で賃金格差が生じ、労働力が工事関係に流れたことも起因。県熊毛支庁は2024年度から3年計画で人材確保対策に乗り出した。
持続可能な生産体制を確立させるのが狙い。雇用マッチングアプリの普及・活用や外国人の受け入れ推進を軸に、島内1市2町やJA種子屋久、生産者組織などと昨年5月に協議会を立ち上げた。3市町も独自の対策を進める中、どうすみ分けを図り、実効性のある仕組みをつくるかが焦点になる。
■重なる収穫期
農業は島内就業人口の25%弱を占める。5年間で約3ポイント、500人以上が減ったとはいえ、今なお島の暮らしを支える重要な産業だ。一方、キビの収穫期に当たる11~4月はジャガイモや茶も重なり、人手の確保が懸案だった。
県熊毛支庁では対策に本腰を入れるのに当たり、認定農業者アンケートを実施。回答した73人のうち7割超が「不足」「今後不足する見込み」とし、理由の多くに「季節雇用できる人材の高齢化」や「家族内の労働力の減少」を挙げた。島内でのやり繰りが、限界といえる状況がうかがえる。
■意外な供給元
島内の人材を掘り起こしつつ、島外からどのようにして呼び込むか。畑作農家を中心に注目を集めているのが、農作業の「1日バイト」を紹介する無料アプリだ。鹿児島県本土を含め、全国で活用されている。働き手の登録者数は1万人を超えるが、種子島では活用事例がほとんどなかった。
農業に関心を持っていても接点がない-。そんな人たちを現場につなごうと、熊毛支庁は昨秋に体験会を複数回開催した。安納いもの収穫現場では主婦ら3人がつるを切り落とす作業などを手伝った。子どもの山村留学に付き添い、西之表市で暮らす楠原悠実子さん(43)は「単純作業で4~5時間というのが受け入れやすく、家庭と両立できる。意外とできそう」と笑顔だった。
実は馬毛島の基地整備関係者も人材供給元になりつつある。アプリの存在が口コミで広がり、30代の男性も知人に紹介されて登録。「休日に出かける場所がなかなかない。宿舎で何もしないより時間を有効に使える」と、ジャガイモの収穫に応募した。「専門知識もないのに感謝される。また手伝いに行こうと思う」
■中小支援が鍵
「必要なときに必要な人数だけ」という短期の人材確保は発展性が見込める一方、1カ月単位の長期となるとハードルが上がる。熱心で仕事になじんでいる東南アジア系の外国人に頼る面が大きいものの、受け入れに当たっては人件費や住宅確保がネックになり、畜産やサトウキビなどの大規模経営体に限られがちだ。コストに見合う仕事を割り振れるかという点が、中小農家が二の足を踏む要因となっている。
こうした現状を踏まえ、県熊毛支庁は3年間で農家間で人材の需要と供給を取りまとめる「プラットフォーム」の育成を目指す。中小農家同士で組んで有能な外国人材を招き、作業スケジュールを付き合わせて融通し合うというわけだ。
「県主導で地域課題に向き合うのは珍しい」と、3市町からは前向きな声が聞かれる。県熊毛支庁は2年目となる25年度も、基本的に前年度事業を踏襲し、実績を積み上げたい考えだ。農政普及課の木村規代課長は「行政と民間業者で道筋をつくりながら、将来的に生産者が中心となって地域に根ざした形で人材の調整ができればいい」と話す。