テストを採点する男性教諭。家に仕事を持ち帰るのは日常茶飯事という
まだ日も昇らぬ午前4時、持ち帰った約30人分のテストの束を取り出し、採点に取りかかる。多いときは4教科分、2時間ほど作業は続く。鹿児島市内の小学校に勤める男性教諭(56)の日常だ。「夕食後にやる同僚もいる。教員の多くは同じような生活だろう」
所定の就業時間は午前8時15分からだが、児童が登校してくる午前7時半には出勤する。休み時間は、次の授業で使う教材の用意などに追われ、あっという間。トイレに行く暇もない。
教室内の様子に目配りしながら給食をかき込むと、宿題や日記のチェック。午後4時過ぎに児童たちが下校し、ようやく一息つくと、翌日以降の授業準備に着手する。
児童のトラブルで保護者に電話をかけることもあるが、つながるのはたいてい午後6時以降だ。学級通信や行事計画案の作成を済ませると、日が暮れた家路につく。
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文部科学省の調査によると、2023年度の時間外在校等時間が国の指針上限の月45時間を超えた公立小学校教諭は24.8%。ただ、この時間に自宅で作業する「持ち帰り」は含まれない。
残業代の代わりに支払われる教職調整額は給与月額の4%。教員給与特別措置法(給特法)が6月に改正され、10%まで段階的に引き上げられるが、サービス残業の温床とされる給与体系は維持された。
「学校現場に教員を手厚く配置してくれれば、もっと子どもに寄り添えるのに」。お金が欲しいわけじゃないと男性教諭は嘆く。
昨年度まで理科専科だったが、4月からは5年生の担任を受け持つ。学級数が減ったため教員配置が削られ、理科は非常勤講師に。非常勤が受け持つ時数は限られ、残りは男性教諭がカバーしなければならない。
文科省は小学校の教科担任制の拡充を掲げるが、「常勤の配置を増やさなければ、負担軽減や授業の質向上にはつながらない。実態が見えているのだろうか」と首をかしげる。
教育のデジタル化も忙しさに追い打ちをかけた。情報担当を任され、年度替わりは、児童に1台ずつ配備される端末の回収や設定に忙殺される。不具合が起きた端末を持ち込まれることも日常茶飯事。「教員ではなく、外部の専門家が担ってくれたら」
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男性教諭の5月の時間外在校等時間は指針の上限を超える49.3時間。6月も半ばを過ぎた時点で30時間を超えた。子どもたちが「分かった」と喜ぶ姿を支えに30年教員を続けてきたが、「やりがいだけでは続けられない」と漏らす。
同じ教員だった妻は、心身のバランスを崩して教壇を去った。疲弊して辞めていく若手も多く見てきた。文科省調査では、精神疾患で病気休職する教職員は増加傾向で、23年度は過去最多の7119人に上る。
男性教諭は、個人や現場任せの働き方改革は限界だと感じる。「未来を見据えて人に投資し、教育政策をちゃんと考えてくれるのは誰か」。掲げる公約を、しっかり見極めるつもりだ。
(2025かごしま参院選「託す」①より)
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20日投開票の参院選は中盤を迎え、論戦は熱を帯びている。鹿児島県内の有権者は日々の暮らしの中で何を感じ、政治に何を求めているのか。参院選に託す思いを紹介する。