社説

[政治とカネ]悪習断つ覚悟問われる

2025年10月23日 付

 「政治にはカネがかかる」という言説を容認する社会でいいのか。衆院選で問われている重要な論点である。
 岸田文雄前首相が政権を維持できなくなった最大の要因は裏金問題だ。自民党の政治資金パーティー券販売収入を巡り、出どころや使途の実態が不透明なカネの存在が明らかになった。
 共同通信社の19、20日の世論調査で、投票先を決める際に裏金事件を「考慮する」「ある程度考慮する」と回答した有権者は計66.9%に上った。政党から議員個人に支給され、使途の公表義務がない政策活動費の実態への疑念も高まっている。政治とカネへの不信が選挙結果を左右するのは確実だ。
 政治に希望を託し、本気で期待する人が減る現状への危機感を、与野党ともに強めてもらいたい。疑惑の根本原因と向き合い、悪習を断つ覚悟が問われている。
 裏金事件を受けて「ルールを守る自民党」をアピールして自民党総裁選に勝利し、衆院選公約にも据えた石破茂首相だが、本気度には疑問符がつく。
 自民党の公認候補決定に当たり、裏金事件に絡んだ議員12人を非公認としながら34人は公認した。線引きの基準はあいまいだ。さらに、非公認でも当選すれば追加公認する意向を示す。
 選挙で信を得ればみそぎは済むとの考え方だろう。石破氏はかつて自民党主流派の意に沿わない言動も多く、党内野党的な存在感が持ち味だった。首相の座についた途端に身内に甘くなったと判断されてもおかしくない。
 与党の公明党は政策活動費の廃止や政治資金を監視する独立性の高い第三者機関の設置を提唱する。一方で自民の非公認となった候補を含め、多数の裏金議員に推薦状を出した。判断の整合性が問われよう。立憲民主党や日本維新の会、共産党は企業・団体献金の禁止といった政治資金規正法の改正を掲げる。抜本改革の旗を掲げ、政権交代を訴える戦術だろう。
 鹿児島県内の各選挙区でも、自民党候補者は党としての反省や改革の意欲を語り、野党候補者は厳しい批判を繰り広げる場面が目立つ。だが、直視してほしいのは選挙の「逆風」や「追い風」にとどまらない、政治そのものへの信が揺らぐ事態の深刻さである。
 戦後、田中角栄元首相が逮捕された1976年のロッキード事件、88年のリクルート事件など、政治とカネを巡る疑獄事件が度々表面化した。国民の政治への失望を生み、無関心を加速させてきた側面がある。
 結果として、「政治にはカネがかかる」という言い訳を受け入れる空気が、有権者の間に広がってはいないだろうか。そんな認識はいま一度見直すべきだ。政治とカネの実態解明と政治改革の前進は、衆院選後も諦めてはなるまい。

日間ランキング >