自民党の派閥裏金事件に不信が高まる中、党刷新を打ち出し支持回復を狙った解散総選挙で国民は厳しい審判を下した。
きのう投開票された第50回衆院選で自民の獲得議席は公示前勢力256を大きく下回り、定数465の過半数(233)を割り込んだ。2012年衆院選で民主党から政権を奪い返して以降、4回連続で単独過半数を維持してきた圧倒的な「1強」体制のほころびを印象づけた。
衆院選は政権選択の選挙とされるが、今回ばかりは「自民を信任するかどうか」の様相が強かったと言えるだろう。
石破茂首相は十分な国会質疑に応じず、1日の就任から戦後最短で衆院解散を仕掛けた。
選挙に際しては裏金関係議員12人を非公認とした。党執行部は厳しい処置を強調する一方、非公認候補が代表を務める党支部に「活動費」として、税金が原資の政党交付金から2000万円を支給していた。失望感を抱いた有権者は多かったはずだ。首相が掲げた「納得と共感」の政治にはほど遠い判断と映った。
「桜を見る会」や森友、加計学園の関連疑惑、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係、日本学術会議の新会員の任命拒否。安倍・菅・岸田3政権から続く自民のおごりと緩みが問題を招くたび、国民の間にマグマのような不満がたまっていた。自民は党としての危機意識の欠如に向き合う必要がある。
■野党共闘の行方は
自民は単独過半数割れが確実になっただけでなく、公明党と合わせた与党での過半数確保を巡る攻防にも追い込まれた。
選挙戦で石破首相は、物価高に対処する大型の補正予算編成を表明。野党の外交・安全保障や経済政策を批判し、自公の政権担当能力をアピールしたにもかかわらず、与えられた議席数を見れば、政権継続に疑問を投げかけられたと考えるべきだ。
野党との数合わせの連携や、石破首相ら党幹部の責任論だけで済ませようとするなら、自民への信頼は今度こそ地に落ちる。「政治とカネ問題」の源になった裏金事件の再調査による真相解明に踏み込み、民意に沿う取り組みが求められている。
野党第1党の立憲民主党は、公示前勢力の98に多くの議席を積み増した。「政権交代こそが最大の政治改革」という野田佳彦代表の訴えが、一定の評価を受けた躍進と言っていい。
だが単独での政権奪取に至らなかったのは、有権者から全面的な信任を得られていない証左だろう。鹿児島市での街頭演説で野田代表は「税金の使い方を変えるのが政権交代の醍醐味(だいごみ)だ。十数年に1回は変えていかないと」と声を張り上げた。支持をさらに広げるには、公約で掲げた政策の実効性を高め、政治の手が必要なのに今は届いていない人たちにも届くような税金の使い方をしっかり示していく必要がある。財源の曖昧さなどを解消すべきなのは当然だ。
立民以外では、「手取りを増やす」をキャッチフレーズに掲げた国民民主党が勢いを見せ、れいわ新選組も伸長した。
ただ今回、全国に289ある小選挙区で野党候補の一本化が順調に進んだとは言えない。自民1強への対抗として生まれた「野党共闘」は曲がり角にある。バラバラで戦っても政権交代の現実味は増すまい。
今後、基本政策の一致に基づく連立政権構想を示せるか。政党協力に地殻変動が起きるのか。野田氏ら各党首の決断と指導力が問われることになる。
■内憂外患に対処を
日本は人口減少と少子高齢化の加速に直面し、社会の活力を失わずに持続可能な社会保障制度を構築していかなければならない。円安、物価高で暮らしは厳しさを増す。
防衛費増の財源には増税も予定され、異常気象など地球温暖化の影響をいかに抑制していくかは切実な問題だ。原発回帰路線も丁寧な議論が要る。
ロシアのウクライナ侵攻、中東の戦火もやまない。内憂外患の課題は山積みで、対処が急がれる。政治の停滞を見せつけられるのはもううんざりだ。
この不信感、諦めが、特定の支持政党を持たない無党派層の投票率低下につながっていないか。共同通信がきのう午後11時現在で集計した推定投票率は53.75%。21年の前回衆院選を2ポイント程度下回りそうだ。これまで自民を支持してきた層が今回、投票所に足を運ばなかったとみられることも、影響したと推測できる。
先月、鹿児島市で講演した憲法学者の木村草太さんは選挙や議会の傍聴など政治参加にはさまざまな方法があり、参加の重要性を指摘した上で「何かを諦めると確実に私たちの生活はむしばまれていく」と述べた。私たちは諦めずに声をあげていかなければならない。