衆院選で与党が歴史的大敗を喫した。自民、公明両党の獲得は計215議席で、過半数を割り込んだ。自民は公示前から65減らして191議席、公明は8減の24議席にとどまった。
鹿児島県内4選挙区でも三つの区で自民候補が敗北した。2、3区では自民候補の比例復活の道を断つ大差がついた。選挙区ごとに事情は異なるが、自民政治への不満や失望が如実に反映された結果と言えよう。
石破茂首相の政権基盤は大きく揺らいでいる。「国政の停滞は許されない」と引責辞任を否定したものの、11月11日召集で調整が進む特別国会で行われる首相指名選挙を勝ち抜けるかどうかも定かではない。
自民党内では石破氏の責任論が浮上している。「与党で過半数確保」と自ら公言していた勝敗ラインをクリアできなかったのだから、当然だろう。
だが、党内の主導権争いに終始していては国民に見放される。まずなすべきは、選挙で示された民意を直視することではないのか。
有権者の「ノー」は、誕生1カ月にもならない石破内閣というよりは、2012年の政権奪還以降、少数意見に耳を貸さず、身内に甘い1強政治に向けられたと認識すべきだろう。歯止めにならなかった野党も含めて、政治全般への不信が積み重なった帰結である。各党それぞれのやり方で、信頼の再生に力を尽くしてもらいたい。
当面の焦点は、自公が野党を取り込んで事実上の過半数を確保できるかどうかだ。鹿児島2区から無所属で立候補し、自民候補を抑えて当選した三反園訓氏らは追加公認の可能性が取り沙汰されている。
大きな鍵になるのは、公示前7議席から28議席に躍進した国民民主党だ。玉木雄一郎代表は連立への参画を否定する一方で「政策ごとに良いものには協力する」と含みを持たせている。
野党第1党の立憲民主党とは共に民主党を源流に持つ。立民の野田佳彦代表は「一致点を探していく対話を始めたい」と連携に意欲的だ。玉木氏の選択次第で、立民を中心とする新たな連立政権の樹立が現実味を帯びる。
小選挙区53.85%と戦後3番目に低かった投票率を見れば、野党が新たに有権者の積極的な支持を背負って票を伸ばしたとも言い切れない。ただ本気で政権担当能力を証明したいなら、与党過半数割れはまたとない好機だ。各党のリーダーの決断力が問われる。
政治の世界で、政党や議員の合従連衡は付きものだ。とはいえ党利党略や保身にばかり血道を上げるような政治家の姿もまた、不信の源と言っていい。選挙で訴えた理想や政策を十分な説明もなくないがしろにするようでは、今回の衆院選は一時的な追い風に終わることを忘れないでほしい。