社説

[南日本文化賞]創意工夫重ね郷土に光

2025年10月31日 付

 文化の日を控えたあす、長年郷土に功労のあった人々を顕彰する南日本文化賞の贈賞式が開かれる。75回目の今回は1個人2団体に贈られる。
 受賞者は信念に基づいて創意工夫を重ね、それぞれの分野で成果を上げた。その努力は、人口が減り、各地でさまざまな活動が行き詰まりや先行きの課題を増す状況に希望の光を差してくれた。これまでの歩みに敬意を表し感謝の意を伝えたい。
 学術教育部門で受賞する川内大綱引保存会は1985年、薩摩川内市で毎年9月に開かれる伝統行事「川内大綱引」の安定した運営と継続のために設立された。当時、運営主体だった連合青年会は会員の減少や資金面に課題を抱えており、川内商工会議所などが中心となって立ち上げた。
 川内大綱引は、長い歴史が育んだ独特の競い方が見どころの一つだ。参加者は上方と下方に分かれ、激しくぶつかり合う。だが、腕力自慢たちが集う祭りは、風紀の乱れが課題だった。「けんか綱」という通称の使用をやめ、警察と連携しながら健全な運営を模索する。99年には「子供大綱引」も新設し、後継者の育成にも力を入れる。保存会の多彩な取り組みは行事そのものへの評価も高め、今年3月の国の重要無形民俗文化財指定にもつながった。
 同じく学術教育部門の堤剛さんはドイツ人バイオリニスト、ゲルハルト・ボッセさんの後を継ぎ、24年間も霧島国際音楽祭の音楽監督を務める。地元との一体感を重視した運営のおかげで、音楽祭の期間中は県内各地でクラシック音楽に触れ合える機会が増えた。
 日本を代表するチェリストで今年の文化勲章受章者にも選ばれたクラシック界の第一人者だ。「音楽を通じた人の輪」を大切にする温かみあるプログラムづくりを心がけ、一流の講師陣と教えを請いたい受講生たちが国内外から集う。今や音楽祭は世界から注目を集める催しに成長した。
 社会部門の奄美マングースバスターズは、アマミノクロウサギなど希少動物を捕食する特定外来生物マングースを根絶させた。約700平方キロメートルにおよぶ広大な地域で成功した例は世界で初めて。同じ課題を抱える沖縄など他地域にも希望を抱かせる功績である。
 マングースは毒蛇ハブの駆除のために持ち込まれたが野生化し、捕食しやすい他の希少種の天敵となった。わなを改良し探索犬を育てるという工夫を重ねながら、ハブにかまれる危険のある険しい山中に入り、駆除に成功した。知恵と努力の結晶とも言える成果は世界自然遺産登録にも寄与した。
 県内は人口減少に歯止めがかからず、郷土芸能の伝承、文化振興、観光産業の浮揚などあらゆる面に難題を抱える。受賞者たちの歩みはこうした課題の解決へ道筋を示すようである。

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