社説

[「闇バイト」]怪しい情報見抜く目を

2025年11月2日 付

 首都圏を中心に手口の類似した強盗事件が相次いでいる。実行役は「闇バイト」と呼ばれるインターネット上の募集に応じた若者らだという。
 主に一戸建てに住む高齢者が狙われる。実行犯は住民を縛り上げて金品を奪うだけでなく、キャッシュカードの暗証番号を聞き出そうと暴行を加えたり、連れ出して監禁したりした例もある。横浜市では75歳男性が殺害された。
 警視庁と埼玉、千葉、神奈川の3県警の合同捜査本部は、8月以降に発生した計14事件を重点捜査している。これまでに30人以上を逮捕したが、すべて実行役だ。
 指示を出した首謀者を特定しなければ、同種の事件が続く恐れは高い。捜査本部は総力を挙げ、広がりつつある治安への不安を取り除いてほしい。同時に欠かせないのは、若者がネットで誘われて凶悪犯罪に加担しないよう、怪しい情報を見抜く目を養うことだ。
 交流サイト(SNS)で高額収入をうたい、「ホワイト案件」などと業務の合法性を強調するのは闇バイトの常とう手段だ。求人に応募したら、やりとりの履歴が一定時間で消える秘匿性の高いアプリに誘導され、犯罪行為を指示される。運転免許証などの個人情報に加え、家族情報まで提供を求められるのも特徴である。
 簡単な仕事で金を稼げると手を出した若者が、見ず知らずの指示者の捨て駒にされる。途中で犯罪と気づいても、家族への危害を恐れて抜け出せない。甘言で誘われ、脅迫で縛られて道を誤る若者を増やさないために、社会でできることは少なくないはずだ。
 強盗罪は5年以上の懲役刑、強盗致死罪なら死刑か無期懲役と刑法で規定される。「バイト」の語感とはかけ離れた大きな代償が待つことを、教育現場でしっかりと伝えねばならない。
 まずは安易に応募させないのが大事だが、たとえ応募しても、犯行への加担を踏みとどまらせることはできる。
 警察庁は先月、闇バイトに加担しないよう注意を促す動画をX(旧ツイッター)で発信し、少なくとも3人から相談を受けて保護した。石破茂首相は官邸ホームページの動画で「警察は相談に来た人の安全は絶対に守る」と呼びかけた。ニュース離れが深刻な若者世代に、こうしたメッセージをどう浸透させるかが課題だ。
 今後、常とう手段に当てはまらない巧妙な誘いや犯行形態が増えることも予想される。後れを取らないよう、対策も絶えず進化させる必要がある。
 首都圏での犯行が目立つが、鹿児島県を含む地方に標的が広がる可能性もあろう。リフォームの営業を装って下見をしているとの情報もある。戸締まりの徹底はもちろん監視カメラなどの設置、地域での情報共有など、防犯の備えを見直したい。

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