東北電力女川原発2号機(宮城県女川町、石巻市)が再稼働した。東日本大震災の被災地に立地する原発の再稼働は初めて。過酷事故を起こした東京電力福島第1原発と同じ沸騰水型軽水炉(BWR)としても初となる。
政府は電力需要増を見据え、「原発の最大限活用」をうたっている。経済効果や脱炭素電源としての役割を期待する声もあり、これを節目に再稼働を推し進めたいところだろう。
だが住民の不安は払拭されたとは言えない。安全面の検証を繰り返し、避難計画の実効性を高める責任を国や県、事業者は果たさなければならない。
福島事故の影響で国内の全原発が停止した。2015年の九州電力川内原発(薩摩川内市)を皮切りにこれまで6原発12基が再稼働した。
女川原発は東日本大震災の震源に最も近い原発で、最大約13メートルの津波が襲った。当時の敷地は海抜14.8メートルだったが冷却用水の取水路から海水が流入し、2号機原子炉建屋地下が浸水。外部電源は5回線のうち4回線が停止したが残った電源で冷却を維持し、福島のような事故は免れた。
福島事故を踏まえ、原子力規制委員会は原発運転の前提となる新規制基準を策定。東北電は11年の歳月と約5700億円をかけて国内最大級となる海抜29メートル、総延長約800メートルの防潮堤などを整備し規制委の審査に合格した。
国内の原発はBWRと加圧水型炉(PWR)の2種類あり、蒸気でタービンを回す仕組みなど構造が違う。東日本に多いBWRは格納容器が小さく、内部の圧力が上昇しやすいとされる。新基準では格納容器の破損を防ぐ排気設備設置などが必須とされ時間を要した。審査も長期化し、これまでの再稼働12基は全て西日本のPWRだった。
事故対策を講じてもリスクゼロではない。12月は中国電力島根原発2号機(松江市)でも同型機の再稼働が見込まれるが、安全性を求める周囲の目は厳しいと電力会社は自覚すべきだ。
住民の懸念には万一の事故時の避難もある。女川原発は太平洋に突き出た牡鹿半島に位置し、半島南部の住民は原発のそばを北上しなければ避難できない。半島南部と離島は、即時避難する原発5キロ圏に準じるが実効性への懸念は根強い。大震災では津波で周辺道路が通行止めとなり孤立集落も出た。
1月の能登半島地震では北陸電力志賀原発(石川県)の周辺道路が寸断。家屋倒壊や屋内退避の施設への被害も相次ぎ、避難の課題が改めて浮き彫りになった。しかし女川原発の避難計画には能登の教訓は反映されていない。
自然災害が同時に起こる複合災害への対応は川内原発を含む全国の立地地域に共通する課題だ。福島事故の教訓を忘れ、住民の安全安心を置き去りにするようなことがあってはならない。