社説

[フリー保護新法]発注元にルール浸透を

2025年11月6日 付

 会社や自治体などの組織に属さず働くフリーランス(個人事業主)を保護する新しい法律が1日施行された。
 個人で仕事を請け負う働き方は、新型コロナウイルスの感染拡大下で広がった。IT技術者やインターネット通販・料理宅配サービスの配達員など幅広い分野にわたる。2020年の政府試算で462万人に上っている。
 一方で、契約打ち切りなどを恐れて取引相手より弱い立場に置かれやすいのが現状だ。発注事業者に適正取引やハラスメント対策を迫る新法の趣旨を浸透させ、多様な働き手が安心して働ける環境整備につなげる必要がある。
 連合による21年10月の調査で、フリーランス労働者の4割が報酬の支払い遅れ、不払い、仕事の内容変更といったトラブルを1年以内に経験していた。対処方法として「何もしなかった、できなかった」が3割に上り、書面交付もない口約束で済ませるような曖昧な契約事例も多かった。
 フリーランスの保護強化を成長戦略に掲げる政府が手をこまぬいている訳にはいくまい。一方的な不利益を押しつけられないよう、新法では全業種を適用対象として、発注事業者の「義務」と「禁止行為」を定めた。
 例えば仕事を依頼する際には内容や報酬額、支払期日などの取引条件を書面やメールで明示しなければならない。報酬を著しく低く定めたり、フリーランスに責任がないのに事前に決めた報酬を減らしたりするのを禁じる。ハラスメントの相談対応も求めた。
 公正取引委員会が調査し、違反を認定すると発注者に勧告。対応が図られない場合、改善措置命令を出し、事業者名や違反内容を公表することができる。命令にも従わなければ50万円以下の罰金を科す。
 これら違反した場合の措置を発注者がきちんと認識してこそ、未然防止が図られる。ただ、新法の内容はフリーランス当事者、発注側企業の両方共にまだ認知不足との調査結果が出ている。特に「一人親方」の酷使が問題視される建設や、医療・福祉の業種で周知されていなかったという。
 新法については公正取引委員会の特設サイトに詳しい。発注側がやりがちな「あるあるチェック」などもあり、有効に活用してほしい。
 22年11月に料理宅配サービス「ウーバーイーツ」の配達員が、運営会社と雇用契約はないものの「労働組合法上の労働者に当たる」として団体交渉の権利を認められた。昨年10月には「アマゾンジャパン」の配達員が仕事中のけがで初めて労災認定され、補償を受ける権利があるとの判断が下りた。
 これまで労働関係法令の対象外だったフリーランスの待遇改善を後押しする動きは今後も強まるだろう。発注側の自覚を求めたい。

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