社説

[北朝鮮の兵派遣]戦闘激化の新たな局面

2025年11月8日 付

 北朝鮮がロシアのウクライナ侵攻を支援するため、兵士の派遣に踏み切った。国際秩序を踏みにじる侵略への加担は到底容認できない。
 ウクライナ軍筋によると、派遣された北朝鮮兵は将軍3人を含む約1万2000人で、段階的に前線に配置されているらしい。容貌が似ているロシア極東の少数民族に偽装し、ロシア兵に交じって戦闘に参加したとの情報もある。米有力紙は初交戦で「かなりの数」の北朝鮮兵が死亡したと報じた。
 北朝鮮にとって、領土から遠く離れた土地で自国軍兵士の命を危険にさらすに値するメリットがあるとは思えない。金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記の判断は理解し難い。ウクライナの戦闘が、さらなる長期化と激化につながる新たな局面に入ったのは間違いない。
 北朝鮮の最大の目的は、ロシアとの関係深化だろう。先週、モスクワであった両国の外相会談で、北朝鮮の崔善姫(チェソンヒ)外相は「ロシアの勝利まで断固としてロシアの同志と共にある」と述べた。ロシアのラブロフ外相も「過去に前例のない高いレベルに到達した」とロ朝関係の強固さを強調してみせた。
 北朝鮮は核・ミサイル開発の技術支援といった見返りが期待できる。だが、両国の結束が将来にわたって維持できるかどうかは疑問だ。
 昨年11月に韓国に亡命した北朝鮮の元キューバ大使館参事官は、ウクライナ侵攻が終われば関係は冷却するとみる。「北朝鮮は地政学的にも戦略的にも利害関係の深い中国を重視せざるを得ない」との指摘は納得しやすい。
 北朝鮮は、兵士に実戦経験を積ませて軍の威力増強を図る狙いもあろう。ロシアから無人機の実戦運用や前線での現代戦術を学べば、東アジア情勢の緊張を高める可能性もある。
 ただ、ウクライナのゼレンスキー大統領は「北朝鮮兵はロシア兵より前面に押し出される」と予測する。ロシアの自然や地形に慣れない北朝鮮兵が最前線に投入されれば、多数の犠牲者を出すのではないか。
 ロシアのプーチン大統領と金総書記は6月にウラジオストクで会談し、包括的戦略パートナーシップ条約に署名した。軍事協力の拡大路線の先にあるのは、流血の拡大にほかならない。両指導者の人命軽視は看過し難い。
 北朝鮮の元キューバ大使館参事官は、国民の困窮を意に介さず体制維持に執着する金正恩体制は「先代や先々代を超え非人道的で残虐な水準に達している」と語る。米本土を射程に入れるミサイルの開発能力を誇示するような大陸間弾道ミサイル(ICBM)などの試射を繰り返す動きからも、独裁者の暴走は現実味を増すばかりだ。
 歯止めをかけられずにいる国際社会の結束に向けて、日本政府はより一層努力すべきだ。

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