鹿児島県で製造が盛んな本格焼酎をはじめ、日本酒、泡盛など「伝統的酒造り」の技術が、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の無形文化遺産に登録される見通しになった。
「こうじ菌を使った発酵」という点で共通し、杜氏〔とうじ〕・蔵人〔くらびと〕が手作業で伝承してきた古来の技である。各地の気候風土や歴史に深く根付く。
鹿児島には芋や黒糖を主な原料とする100を超える焼酎蔵元があるが、近年、若者のアルコール離れで苦戦を強いられる。今回の登録を、輸出で先を越される日本酒と並ぶ「国酒」として焼酎を発信する追い風にしたい。
政府は2021年、伝統的酒造りを国内の登録無形文化財に選定。22年にユネスコ遺産に申請し、このほど評価機関が登録を勧告した。
知識と技術の伝承に加え、「強い文化的意味」が評価された。祭事や婚礼などの行事に酒が欠かせないことや、酒造りが地域結束につながっていることが認められたという。実現すれば「能楽」や「和食」に連なる国内23件目のリスト入りとなる。
伝統的酒造りは、カビの一種であるこうじ菌が存在してこそ成り立つ。蒸した米などに菌を付けて造ったこうじと、酵母の力で、主原料の「糖化」、「アルコール生成」という二つの発酵を同時に進めるのが特徴だ。500年にわたる歴史を持つ日本の酒造りは「こうじ文化」に支えられてきた。
県内蔵元の杜氏が、発酵に伴う温度や湿度管理といった仕事について「米こうじや酵母の機嫌を取り、力を発揮してくれるようにサポートする」と語る言葉には、微生物の働きへの尊敬がにじむ。
長年の経験を積まなければこなせない技の伝承には、若い世代の参入が必要だ。ユネスコ遺産登録で関心が高まり、職人の後継者育成につながるよう望む。
県酒造組合発表の県産本格焼酎の需給状況によると、2023酒造年度(23年7月~24年6月)の出荷量は11年連続で前年度を下回った。一方で、ブランド力が高い日本酒を含む清酒の輸出は近年急増している。焼酎業界が反転攻勢を狙うのは当然だ。
人気のある体験型消費を念頭に、観光・飲食業界と手を組み、蔵元見学ツアーや、地元特産物のつまみと焼酎を味わうプランの企画など受け入れ準備を加速させよう。焼酎蔵元を多数抱える九州各県との連携も大事だろう。
焼酎は「ロクヨン(焼酎6対お湯4)」でおなじみのお湯割りだけでなく、ソーダ割り、カクテルといったさまざまな飲み方ができるし、最近は「香り系」も取り扱いが増えている。多様な楽しみ方はまだまだ知られていない。裏返せば市場開拓の伸びしろは無限にあると受け止めたい。