社説

[鹿児島市長選]県都「創生」への戦略は

2025年11月17日 付

 任期満了に伴う鹿児島市長選が、きょう告示される。2期目を目指す現職の下鶴隆央氏と、県労連や共産党鹿児島地区委員会などでつくる市民団体「市民の市政をつくる会」が擁立する桂田美智子氏=いずれも無所属=が立候補の見通しだ。24日に投開票される。
 周辺旧5町と合併した20年前と比べ1万人余り減ったとはいえ、58万3000人余りが暮らす県都のリーダーを決める選挙である。
 人口減少、地方の疲弊など全国共通の課題に向き合い、モデルとなり得る街づくりの先頭に立つ。候補者は、県都「創生」への意欲と、具体的な戦略を有権者に示してほしい。
 前回の選挙は連続4期にわたり市長を務めた森博幸氏の引退に伴い新人4人が立候補した。「新しい市政が必要」と訴えた下鶴氏は他候補に大差をつけ当選。戦後最年少40歳での就任だった。多選批判も背景に、変化を望む市民の声が後押ししたのは確かだろう。
 新型コロナウイルスが感染第3波を迎える時期で、まずは対策強化を迫られた。ダメージを受けた地域経済の立て直し、サッカースタジアム計画を含む市街地再開発、過疎が進む市周縁部の活性化なども託された。
 渦中だったコロナ対策を除けば現在進行形の課題ばかりだ。それぞれの候補者がどう対処しようとするのかが問われる。
 下鶴氏は111項目のマニフェスト(政策綱領)を発表した際、人口減の中でも持続可能な「選ばれるまち」をつくると強調した。盛り込んだ主なものにはICT(情報通信技術)関連産業の振興、待機児童ゼロ継続、スタジアム整備推進が挙がる。
 子育て支援やデジタル化推進は1期目の実績で一定評価を受けた一方、財源の継続性や、費用対効果の面で疑問符も付いた。街づくりと密接に絡むスタジアム計画については、いまだ候補地選びの段階から前に進んでいない。積み残した施策への将来ビジョンをしっかり語ってもらいたい。
 元鹿児島市議の桂田氏は、4回目の同市長選出馬。50項目のマニフェストには子育て支援、産業・経済活性化など七つの柱を掲げた。「命と暮らしを守る政策に税金を使うべきだ」とし、高校卒業までの子ども医療費無料化などを盛り込んだ。スタジアム整備は民間が主導する方針への転換を訴える。
 他にも公共交通を利用しにくい「交通空白」の解消や、食の安全保障を左右する農業振興、インバウンド(訪日客)需要を取り込む観光振興、地域組織の活性化など争点は多岐にわたる。
 投票率は過去最低だった16年の25%から、20年は38.16%と持ち直した。活発な選挙戦を通じて市民が身近なテーマへの関心を高め、1票を投じる行動につながることを期待したい。

日間ランキング >