社説

[北海道物産展]百貨店周辺に及ぶ効果

2025年11月23日 付

 鹿児島市の山形屋で開催中の「北海道の物産と観光展」が盛況だ。新鮮な海の幸や農畜産物、スイーツを求める客の列が途絶えない会場を見ると、南国・鹿児島県民の北国への憧れの強さを実感させられる。
 今年60回の節目を迎えた物産展では初出店17社を含む115社が計2700品目を販売する。途中、一部の店を入れ替えながら26日まで3週間続く。北海道主催の物産展で売り上げ日本一を35回記録している。
 当初、北海道内の有名店は鹿児島の百貨店からの買い付けに関心を示さなかった。奮起したバイヤーは味や品質は間違いないと自ら判断した「隠れた名店」を発掘し、根気強く出店を誘ってきた。今回来場した北海道の三橋剛副知事は「北海道の魅力をよく探し出しPRしてくれている」と評価する。
 イクラのしょうゆ漬けは鹿児島県民の好みに合わせて甘口に仕上げられている。こうしたバイヤーの働きかけに、北海道側の各店が柔軟に対応しているのも人気の要因なのだろう。
 鹿児島での物産展の評判や売り上げが伸びるにつれ、よそは見送っても山形屋だけはと参加するケースも増えた。今年は昨年の9億円を超える売り上げ10億円を目指している。
 会場には北海道から100人を超える出店スタッフや関係者が訪れ、早朝からの仕込みや客の対応に追われている。客から毎年「お帰り」と迎えられるほどなじんでいる。
 多くは周辺のホテルに滞在し、近くの店での飲食や買い物を通して地元経済にも貢献している。会期中、宿泊者の7割を物産展関係者が占める施設によると、毎年同じ時期に確実に予約が埋まる。ビジネスや観光客の需要がなかったコロナ下では特に助けられたそうだ。
 例年北海道の知り合いを連れて1週間前に鹿児島に入り、ゴルフや観光を楽しむ常連の出店者もいる。全国の物産展を回る関係者の中には、自称「歩く鹿児島観光大使」として各地で鹿児島のPRを買って出る人もいる。舌の肥えたプロの発信効果は大きいに違いない。
 山形屋は私的整理の一種「事業再生ADR」を活用した経営再建の途上にある。催事などで集客力アップを図り「強みを生かした売り上げ向上に取り組む」計画となっている。
 道主催の物産展という仕組み上、10億円近い販売額の8割強は北海道に落ちるため、山形屋側の売り上げへの貢献は限られている。
 とはいえ、秋の風物詩といえるほど県民に浸透し、道内での鹿児島の存在感も高めてくれているのは明らかだ。出店関係者だけでなく鹿児島に興味を持つ人が増えるようになれば、金銭に換算できない波及効果といえる。

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