日米共同統合演習(キーン・ソード)が実施された。2年に1度ある日米最大級の実動演習で、自衛隊3万3000人、米軍1万2000人が参加した。
南西諸島や周辺海域を中心に多くの部隊が展開した。鹿児島県内の自衛隊施設はもちろん、県内外の空港や港湾など民間施設も使用された。
政府は台湾海峡の緊張や北朝鮮の核・ミサイル開発に対応し、自衛隊の強化と同時に米軍との一体化を着々と進めている。県民にとって、日米共同演習や米軍による自衛隊施設使用は日常の一部になった感さえある。
有事への備えは国の責務である。ただ、南西諸島を「戦域」として想定するなら、地元住民への十分な説明を求めたい。国防の手の内を明かせないのは分かるが、自衛隊や米軍の動きの背景や目的への理解を深めておくのも、安全保障の基盤強化に欠かせない。
自衛隊と米軍は、台湾有事に備えた初の共同作戦計画の策定を12月中に目指す。中国が台湾の武力統一に踏み切った場合、米軍はミサイル部隊を南西諸島とフィリピンに展開させ、軍事拠点を設ける方針が盛り込まれる。
自衛隊は2019年に奄美大島、20年に宮古島、23年に石垣島、今年3月には沖縄本島の勝連半島にも地対艦ミサイル部隊を新設した。装備する12式地対艦誘導弾の射程は200キロほどとされ、4カ所で補完し合えば南西諸島が切れ目のない「壁」になる。
この自衛隊のミサイル部隊が、台湾有事の日米共同作戦で重要な役割を担うのは間違いない。裏を返せば真っ先に攻撃の標的になるということだ。
政府内で「台湾有事は日本有事」との認識が広がり、台湾有事に米軍が介入すれば自衛隊も追従するケースは現実味を増している。そんな場合、米軍が南西諸島の住民を守ってくれると期待するのは楽観的すぎる。
米軍は有事の初動段階で、強大な攻撃力を持つ横須賀配備の空母などを中国軍のミサイル攻撃の射程圏外に退かせる。米海兵隊が採用する「遠征前方基地作戦(EABO)」に沿って、南西諸島には機動力のある小規模部隊が分散して展開し、主力部隊が接近できる環境を作り出す。
成功すれば空母などが戻って海空域で優勢を確保する構想だ。住民保護が最優先任務でないのは明白だろう。
キーン・ソード期間中、米兵が奄美市の公民館で島唄や英会話を通して住民と交流する場面があった。米軍側も住民感情に配慮しているのは理解できる。だが、有事となれば軍事的合理性を第一とする行動に徹するのが軍の本質である。
住民避難計画は本当に役立つのか。緊張を和らげる外交努力は尽くされているのか。極めて身近な問題であることを認識し、関心を高めたい。