社説

[韓国政治の混迷]与野党は収拾へ努力を

2025年12月14日 付

 韓国の最大野党「共に民主党」が国会に提出した尹錫悦〔ユンソンニョル〕大統領の弾劾訴追案が、きょう採決される見込みだ。4日に出された訴追案は成立せず廃案となったが、改めて招集された臨時国会に再提出されていた。
 国の最高権力者が、短期間で2度もその資格を問われる異常事態である。尹氏が政権の継続能力を失っているのは明らかだ。
 政治空白が続けば、国民生活への影響は避けられまい。台湾海峡の緊張や北朝鮮による核ミサイル開発など不安材料が山積する東アジア情勢を、さらに不安定化させる懸念も高まる。与野党は混迷の収拾に努力してほしい。
 混迷の原因は3日夜、突然「非常戒厳」を宣言した尹氏にある。戦争や災害など国家が危機的な状況に直面したときに秩序や治安を守るため、市民の権利や自由を制限する命令だ。大統領に託された強大な権限と言っていい。
 だが、尹氏の説明は説得力を欠いた。政権発足後、野党が22件の政府官僚弾劾訴追を発議し、司法や行政の幹部に対しても弾劾を繰り返して国家秩序を踏みにじったと批判した。国政の停滞はあったにしても、国民に知らせるべき危機状況が何なのか不明瞭だ。
 対話を重ねて合意を見いだす民主主義の基本を忘れ、軍を用いて自らの意に沿わない政治勢力の一掃を企てたと見られても仕方あるまい。
 本会議場に集まった与野党議員190人が全員一致で決議し、6時間後に戒厳解除を余儀なくされたのは当然だった。尹氏が保守系ユーチューバーらに影響を受け、北朝鮮に操られた「従北反国家勢力」と戦わねばならないという陰謀論に突き動かされたとの証言もある。それが本当なら、大統領としての判断能力に疑問符がつく。
 検察は尹氏に「非常戒厳」を進言したとされる前国防相を内乱の疑いで逮捕した。警察は警察庁長官とソウル警察庁長官を拘束した。首謀者は尹氏本人との見立てに基づく捜査である。現職大統領には不訴追特権があるが、内乱罪は例外だ。現職大統領として初めて強制捜査の対象となる可能性が高まっている。
 民主主義を否定するような暴挙に出た尹氏への国民の憤りは十分理解できる。だが、尹氏への処罰感情だけが先走ってはなるまい。勢いを増す野党勢力の意に沿った捜査が進むようなことが万が一にでもあれば、法に基づく権力運用から乖離〔かいり〕しかねず、混迷と分断は深まるばかりだろう。
 尹氏は「弾劾にも捜査にも立ち向かう」との談話を発表し、戒厳令は「司法審査の対象にならない統治行為だ」と正当性を主張した。辞任は拒否している。戒厳令に至った経緯を冷静に説明する責任を果たすことで、国政正常化の起点をつくる必要がある。

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