北九州市のファストフード店で中学3年の男女が殺傷された事件は、発生から5日で容疑者が逮捕された。
中学生が塾帰りに立ち寄った店で男から刃物で刺されるという事件の衝撃は大きかった。同市立の小中高校などでは延べ1万人近くが登校を見合わせる事態となった。
容疑者の身柄が確保されたことで、この緊張状態は落ち着くだろう。社会で再発防止策を考えるためにも、福岡県警は犯行に至った経緯を詳しく解明してもらいたい。
逮捕されたのは、現場から直線距離で約1キロの場所に住む43歳の無職平原政徳容疑者だ。男子生徒に致命傷になりかねない深いけがを負わせた殺人未遂の容疑がかかっている。容疑を認めており、女子生徒殺害の疑いもあるとみて取り調べが続く。
店に入ってすぐ面識のない2人を刺したとみられる。受験勉強の合間にハンバーガー店に入り、同級生と一緒に注文レジに並ぶという日常が突然暗転した中学生の恐怖と無念はいかばかりか。同世代の子を持つ全国の親が、強い憤りを覚えたはずだ。理不尽に命を奪われた女子生徒を悼むと同時に、男子生徒の早期回復を祈りたい。
容疑者逮捕には、防犯カメラなど多数の映像を収集して対象者の足取りなどを解明する「リレー捜査」が決め手となった。防犯カメラやドライブレコーダーが普及して可能となった。
今回は計百数十件の映像を集め、事件の直後、店舗駐車場から出て行く黒い車を確認し、行き先をたどって容疑者を特定した。映像を提供する市民の協力に支えられた手法といえよう。
平原容疑者は一戸建てが軒を連ねる住宅の一角に住み、怒鳴り声を発したり、大音量で音楽をかけたりといった迷惑行為で苦情が出ていたという。事件前の通報に警察はどう対応していたのか、検証は欠かせまい。
日ごろから警察に対する市民の信頼がなければ、映像提供や目撃証言などの捜査協力に加え、苦情の通報や困りごとの相談も得にくくなる。全国の警察は改めて肝に銘じてほしい。
事件は発生直後から大きな関心を集め、交流サイト(SNS)には真偽不明の書き込みが目立った。現場の店内映像を公開しないのは「上級国民が映っていて配慮しているから」といった臆測も拡散された。
不確かな情報が社会不安を増幅させた面もあったのではないか。住民は5日間、犯行を重ねる可能性を否定できない人物が野放しになっている状況に直面した。その不安を想像し、無責任な情報発信は慎むべきだ。
警察が容疑者逮捕を第一の使命とするのは当然だが、住民の不安を和らげるための情報の提供にも一層の配慮が求められる。