経済産業省が2040年度を視野に入れる次期エネルギー基本計画の原案を示した。政府のエネルギー政策の土台とされ、おおむね3年ごとに見直している。
岸田前政権が原発再推進への政策転換を表明してから初めての改定となり、原発回帰に踏み込んだ印象だ。
11年の東京電力福島第1原発事故以降に記してきた「可能な限り原発依存度を低減する」の表現が消え、再生可能エネルギーとともに最大限活用すると明記した。福島の教訓を忘れるには早すぎないか。安全安価かつ持続可能なエネルギーを次世代に届ける責任から目を背けていると言うほかない。
基本計画原案は「電力の安定供給」と「脱炭素」を両立させるためとして、発電時に二酸化炭素を出さない原発を、重要電源の一つに位置づけた。発電量全体に占める40年度の目標割合は、23年度の発電比率8.5%をほぼ倍増させる2割程度と見据える。30年度目標の20~22%と同水準だが現実味のある数字とはとても思えない。
「2割」の実現は事実上、既存原発のフル活用を意味する。福島事故前、国内原発は計54基あったが、事故後は21基が廃炉に。再稼働は14基にとどまる。今後の再稼働や運転期間延長、新増設などには多額の投資がかかる。大手電力会社にその体力はほとんど残っていないのが現実だろう。
新たな計画は建て替え要件の緩和にも踏み切る。廃炉原発の敷地内に限っていたのを、同じ電力会社なら別の敷地でも可能にする。玄海原発(佐賀県)で2基を廃炉にした九州電力の場合、代わりを川内原発(薩摩川内市)で新設する道が開ける。しかし敷地内に使用済み燃料がたまり続け、建設コスト高騰、工期の長期化に直面する中、建て替えが加速するかは不透明だ。
熟議に基づく合意と、裏打ちとなる政策導入の見通しがない方針転換はあまりに無責任と言えよう。
再エネは、23年度の発電比率22.9%を「40年度4~5割」へ引き上げる。達成には巨額の民間投資の喚起と、技術革新の推進が欠かせない。
ただ再エネ施設の環境破壊が問題となるケースも各地で目立ち始めた。地元との共生をどう図るかという課題は原発と共通する。住民の納得を広く得るエネルギー政策の提示を求めたい。
火力の電源構成については、40年度目標の割合を、23年度比率から半減させる3~4割程度に設定した。石炭火力への依存を続ける日本には国内外から批判があるが、火力のどれだけを石炭が担うか今回具体的に示さない点では時代の要請に応えたとは言い難い。
50年までの温室効果ガス排出実質ゼロが迫られている。実現に向け、企業活動や日々の暮らしからもっと省エネを深掘りする意識が必要だ。