社説

[税制改正大綱]減税一本やりでいいか

2025年12月24日 付

 自民、公明の与党が2025年度の税制改正大綱を決定した。課税対象や税率、税額を社会・経済の変化に対応させるために毎年末見直している。
 政府、与党が主導し、幹部の非公式会合で方向性をまとめるのが慣例だ。今年は衆院選での与党過半数割れに伴い、様相が一変。国民民主党から「年収の壁」引き上げで攻勢をかけられ、3党協議は納税者注目の中で進んだ。国会の“進化”と言えるだろう。
 問題は中身である。減税幅に終始し税収減を埋める財源論は先送りした。国政政党なら、受益と負担を一体的に考える責任を自覚するべきだ。
 大綱には、所得税が生じる年収103万円の「壁」を123万円まで引き上げると明記した。1995年以降据え置かれてきた数字を、物価上昇率を反映させた額にする。
 国民民主とすれば衆院選の公約に掲げた「手取りを増やす」に沿った要求を実現させたとはいえ、納得はしていない。30年間の最低賃金伸び率を根拠にした178万円までの拡大をなお求めている。年を越して続く3党協議の行方を注視したい。
 パート主婦らの働き控え解消が期待されるこの壁対策のほか、学生が親の減税額を気にせずアルバイトをできるようにする制度改正も盛り込んだ。いずれも25年分所得から適用し、税収は6000億~7000億円減る見通しという。 仮に国民民主が主張する178万円まで所得税の非課税枠を拡大すれば国、地方合わせて8兆円弱の減収を見込む予想も示されている。自治体からは、減収分を国が穴埋めするなどの打撃回避策を要望する声が上がる。
 インフレや就労調整への対応では納得できる部分もある今回の減税策。しかし国債依存をさらに強める結果になれば、財政への信認を損ないかねないと警告しておきたい。高所得者ほど減税の恩恵が大きくなるとの政府の試算もあり、「何のための、誰のための減税か」を改めて吟味してほしい。
 また、働く人にとっての「壁」は社会保障にも存在する。
 社会保険料などの負担が発生する「106万円」や「130万円」の壁である。3党協議では素通りした。所得税と社会保険料。どちらも国民負担に変わりはなく、一体的に考える必要があるのは言うまでもない。
 3税の増税で27年度時点に1兆円強を確保することになっていた防衛増税は、開始時期を法人税とたばこ税は26年4月からと決める一方、所得税には公明内で異論が根強く、決定を来年以降に先延ばしにした。来年の参院選をにらみ、有権者を意識した判断とも言えようか。
 党利党略優先ではなく、家計が直面する困難に真に寄り添う議論を期待したい。

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