JR九州が30年以上にわたり日韓を結んできた高速船事業から撤退する。
子会社のJR九州高速船が運航する「クイーンビートル」の2度目の浸水隠しが8月発覚。年内の運休を決めて再開を探ってきたが、浸水を招いた船体のひび割れ発生リスクを完全に防げず、安全が担保できないと判断した。
希薄な安全意識や管理体制の問題が背景にある。採算や収益を優先し、公共交通機関としての責務を甘く見たツケは重い。
高速船事業は、JR九州の船舶事業部が1991年、ジェットフォイル「ビートル2世」を博多-釜山に就航させて始まった。2005年に分社化しJR九州高速船が発足した。
ピーク時の04年度は4隻を動かし年間35万人が利用したが、格安航空会社(LCC)に押されるように。対抗するため18年に発注した新型船が、従来より大型の全長約83メートル、定員も2.6倍約500人のクイーンビートルだ。
しかし新型コロナウイルス禍で3年近く航路は運休し、本格投入されたのは水際対策解除後の22年11月だった。訪日客拡大への期待は大きかっただろう。1隻体制で代わりの船がなかったことが、浸水を確認しながら運航を続けた遠因になったと推測できる。
最初のトラブルは昨年2月で、運航中に船首から浸水した。その後の国土交通省の監査で、必要な臨時検査を受けていなかったことが分かる。同年6月、事故の報告体制が機能していないとして改善を求める命令を受けた。
今年2~5月に再び浸水。昨年の反省を生かすどころか航海日誌に虚偽の記載をするなどして、国に報告しないまま運航を続けた。法令順守の意識の薄さに言葉を失う。
8月の国交省の抜き打ち監査で発覚し、安全統括管理者らの解任を求める全国初の命令が出された。さらに、海上保安庁は船舶安全法違反などの疑いで高速船などを家宅捜索した。
北海道・知床沖の観光船沈没事故を受けて国は旅客船対策を強化したものの、今回の不祥事は事業者の安全対策が道半ばであることを突き付けた。
第三者委員会の調査報告書は、直接の責任が、営業や社内事情を優先した運航元会社の幹部と船長にあるとしつつ、JR九州の関与も「必ずしも十分でなかった」と指摘する。特に昨年の浸水トラブル後は、親会社の立場でもっと目配りできたのではないか。
今年はJR貨物による「輪軸」組み立てを巡るデータ改ざん不正も明らかになった。国交省が全国の鉄道事業者に指示した緊急点検の結果、不適切な輪軸を使っていたのは91事業者で、うち50事業者の作業記録が改ざんされていた。安全の問題は確認されなかったとはいえ小さなほころびが大事故につながる危険性を忘れるべきではない。