「地方創生」の旗が振られて10年がたつ。人口減少や東京一極集中の是正は図られていないのが現実だ。
政策に思い入れが強い石破茂首相の下、政府は新たな理念をまとめた。若者や女性に選ばれる「楽しい地方」を目指すという。今夏には具体策を盛り込んだ基本構想を示す方針だ。
自治体は、推進の重要なエンジンとなる。鹿児島県の知恵と工夫も問われる。
人口獲得競争ばかりに目を奪われないようにしたい。2023年の人口動態統計(概数)で県の出生数は9867人。初めて1万人を割った。子ども政策の充実と並行し、もはや人が少なくなることを前提に社会を機能させ、「地域の価値」を高める策を練る時だ。
人の流れを生み出し、担い手確保や消費拡大につなげ、楽しい、暮らしやすい場所に-。
自治体がエンジンなら、民間は車輪の役目を担う。官民連携で馬力を上げよう。
幸い、観光産業には追い風が吹く。鹿児島で製造が盛んな本格焼酎など日本の「伝統的酒造り」が昨年、国連教育科学文化機関の無形文化遺産に登録された。訪日客の蔵元ツアー増加といった好循環に期待が高まる。
新型コロナウイルス禍で運休していた鹿児島空港国際線の4定期路線は全て復活した。一方、赤字が事業者の重荷となっている鉄路がある。指宿枕崎線の指宿-枕崎間の在り方、豪雨被害で不通が続く肥薩線の人吉-吉松間の復活について動きがあるか注目だ。観光や日常の足としての存在感を改めて見いだせるかが鍵になるだろう。
■まちづくり楽しく
県都に持ち上がる新総合体育館や多機能複合型サッカースタジアムなど大型公共施設の構想も、本来は、まちの価値を高める楽しい夢のある話のはずだ。足踏みのまま年月が過ぎ、期待感に影を落としているのが残念でならない。
動かすには、いずれも2期目を始動させた塩田康一知事、下鶴隆央鹿児島市長のリーダーシップと協力関係が欠かせまい。中心市街地との回遊性重視など、明確なビジョンの共有が求められる。
併せて、自治体財政の厳しい折、本当に「いま」が建設の好機なのか。議会を含めて県、市ともに問題意識を持ち、説明を尽くしながら判断してほしい。
昨年はイオン鹿児島鴨池店が営業を終え、鹿児島サンロイヤルホテルは移転新築方針を発表した。両者とも現在の場所で半世紀の歴史を刻んできた。跡地の活用に関心は高い。
加治屋町1番街区には再開発ビルの話があり、天文館では私的整理の一種「事業再生ADR」が成立した山形屋の経営再建に向けた新たな年が始まる。
鹿児島市や経済団体でつくる協議会が要望していたJR日豊線・竜ケ水-鹿児島間の新駅「仙巌園駅」は、3月15日に開業を控える。点と点をつなぎ、面でのまちづくりに取り組むための地域交通網構築の一例となるのではないか。
■国にどう向き合う
今年は県内19市町村の首長が任期満了を迎える。11市町は議員改選期だ。住民の政治参加がよりよい地域をつくるという望みを託して、地方選イヤーに臨みたい。
早速1月26日には西之表市長選・市議選が告示される。昨年末までに3期目を目指す現職のほか、新人6人が立候補へと名乗りを上げた。
馬毛島の自衛隊基地整備を巡り、隣り合う種子島の市民生活に影響が広がっている。「行政手続き」の名目で国の動きにならい、賛否が煮え切らない現職への不満が候補乱立の背景にあるようだ。選挙の民意は、今後の国との向き合い方を左右する可能性もはらむ。
馬毛島が物語るように、九州、沖縄の防衛力を強化する自衛隊の南西シフトが顕著だ。政府は、有事の際に自衛隊や海上保安庁の利用を想定する「特定利用空港・港湾」の整備を進め、鹿児島県内では、鹿児島空港など全国最多の8カ所が指定された。
いまや、個別法の根拠なしで非常時に国が自治体へ必要な対応を指示できる環境が整っている。共同通信が行った全国自治体アンケートで、自治体トップの過半数がこの措置を肯定的に評価していたのは意外な結果だった。大雨や地震、感染症といった災難が相次ぐ中、国の方針に従う必要性は否定しないものの、国の判断が地元にとって常に正しいとは限らないだろう。
安全保障問題しかり、エネルギー政策の原発活用しかりである。最前線で住民の暮らしと安全を守る存在の自治体は国に同調するだけでなく、それぞれ自分の頭で考え、行動しなければ役割を果たせるとは言えない。