イスラエルとイスラム組織ハマスが、パレスチナ自治区ガザの停戦に合意した。19日から6週間、戦闘を停止する。
両者は2023年11月下旬から7日間、戦闘を休止し、人質らの身柄を交換した前例がある。だが、期間終了後は互いに攻撃を再開して市民の犠牲者を増やし、中東各地に戦火を広げた。
今回は停戦期間が長いだけでなく、双方の市民に広がる戦争疲れを考えれば、恒久的な停戦に向かう潮目になり得る。15カ月を超える戦闘に終止符を打つには、国際社会の連携が欠かせない。戦闘再開を回避する働き掛けを強めると同時に、深刻な人道危機に直面するガザ市民への支援を一層拡充する必要がある。
恒久停戦への行程は3段階で、今回の合意は第1段階だ。6週間でハマスは人質のうち女性や高齢者ら33人を段階的に解放し、イスラエルも拘束するパレスチナ人数百人を釈放する。住民はガザ全域に帰還でき、イスラエル軍はガザの人口密集地から撤収する。
その間も停戦継続を協議し、第2段階に進むことができたらハマスは男性兵士を含む人質を追加で解放し、イスラエル軍はさらに撤収を進める。その後も交渉を続け、第3段階でガザ復興を進める流れだ。
両者は合意を着実に履行し、憎悪と暴力の連鎖を断ち切らねばならない。
ただ、見通しは楽観できない。イスラエルのネタニヤフ首相は「戦争継続」を主導し続けることで政権の求心力を保ってきた。「パレスチナ人排除」という目的に固執する極右連立政党が、合意に同調するとは思えない。
今回は停戦に踏み出したネタニヤフ氏だが、政権維持のために態度を変える可能性は否定できない。「イスラエルの目的は人質奪還で、停戦は手段」との見方を示す専門家もいる。
合意の背景には、米国の現政権と次期政権が連携した仲介があったようだ。バイデン大統領は過去数十年で「最も困難な交渉の一つだった」と語り、外交努力を誇示した。トランプ次期大統領はハマスが人質を解放しなければ「中東に地獄が訪れる」と警告する一方で、イスラエルには次期政権の中東担当特使を派遣した。トランプ氏との関係維持を重視するネタニヤフ氏の判断に作用した可能性は高い。
この先の外交交渉は、20日に大統領に就任するトランプ氏が担う。脅し一辺倒ではなく、公正な仲介者として手腕を発揮しなければ、平和を基調とする国際秩序の回復は主導できまい。
戦闘の死者はガザ側だけで4万6000人を超え、人口の9割が避難民となった。水や電気など生活インフラを根こそぎ奪われた200万人超が命の危険に直面している。まずは市民の安全と生活の保障が急務である。