任期満了に伴う西之表市長選が、あさって告示される。これまでに、3期目を目指す現職に加え、新人5人が立候補を表明している。
異例の乱立模様が示すのは、同市馬毛島での自衛隊基地整備事業を巡る不満のくすぶりだろう。
安全保障を担う国の政策に対して、市民の暮らしに直結する自治を担う首長はどう向き合えばいいのか。選挙戦は、このことについて改めて考える好機と受け止めたい。各候補者は市民に十分な判断材料を示す必要がある。
基地は米軍空母艦載機陸上離着陸訓練(FCLP)移転を伴い、「南西防衛の要」の期待を背負う。
2023年1月に着工。当初4年程度だった工期見込みは3年延長され、防衛省は25年度予算案の整備関連費に、追加的経費も一部含む473億円を計上した。南日本新聞の集計では、調査段階の12年度からの契約額合計が1兆円を超えた。一大国家プロジェクトと言って間違いない。
現職の八板俊輔氏は17、21年の2度にわたる市長選で基地整備に反対の立場を掲げ当選した。
しかし22年1月に日米両政府が基地整備地に馬毛島を正式決定すると「新たな局面に入った」とし、賛否を濁すようになった。その一方で「市に求められる行政手続きがあれば適切に対応する」として馬毛島の市有地を防衛省に売却したことなどが、「実質的な国への協力だ」と批判を受けた。
「地方自治」の主体性をもっと示すことはできなかったか。市民、議会の理解を得る努力は十分だったのか。事実上の受け入れという道を選ぶなら、その真意について選挙戦を通じて分かりやすく説明できるか問われる。
現職以外の5人の候補予定者のうち1人は明確に基地整備への反対を打ち出している。残る4人は賛成、容認を表明。協力姿勢を示すことで支援を引き出すことや、受け入れた上で市政充実に専念するべきとの主張、経済的メリットの最大化を求める声もある。
すべての候補予定者に共通するのが、基地工事の進捗(しんちょく)に伴う環境変化への問題意識だ。
売り上げを増やす商工業者がいる半面、人手不足や家賃高騰、交通渋滞などが顕在化している。「市民の安心安全の追求」を目的とした市と防衛省の協議は、着工前1年間の11回に比べ、着工後は3回と激減した。市の再三の呼びかけに国が応えていないのが現状だ。不安解消に向けて国とどう交渉を進めるのか。次のリーダーに託された重い課題と言える。
基地以外にも、1次産業の衰退や人口減に対する危機感など論点は多い。同時に告示される市議選(定数14)とともに、離島の活性化策の議論を深める選挙戦を展開してほしい。