通常国会が召集された。安倍政権から菅、岸田両政権へと続いた「1強多弱」の構図が崩れ、与野党伯仲下で迎える長丁場の論戦である。
最大の焦点である115兆円超の2025年度予算案審議をはじめ、数の力を頼みにできない少数与党にとっては困難な局面が予想される。与野党が骨太の議論で合意を見いだし、言論の府の真価を発揮してほしい。
石破茂首相は施政方針演説で「楽しい日本」の目標を掲げた。故堺屋太一さんの著書からの引用で、先日の年頭記者会見でも口にした言葉だ。
明治維新で誕生した中央集権国家は「強い日本」を目指した。戦後の復興や高度経済成長を担った企業は「豊かな日本」に向けてまい進した。こうした近現代史観に立ち、国民一人一人が主導する新しい時代のキャッチフレーズとして提唱したのだろう。
「全ての人が安心と安全を感じ、自分の夢に挑戦し、今日より明日はよくなると実感できる」国家像に異論はない。だが、「楽しい日本」という言葉が胸に響く国民が今、どれだけいるかは疑問だ。物価、年金、安全保障、環境問題と、暮らしの今と将来を取り巻く懸念や不安は枚挙にいとまがない。
首相に求められるのは、こうした一つ一つの課題に対応する具体的な政策である。着実に実行していく力強さを見せれば「楽しい日本」への共感が広がり、国の活力を支える基盤になるはずだ。
通常国会では所得税が発生する「年収103万円の壁」を123万円に引き上げる税制改正関連法案が一つの焦点になる。178万円への引き上げを掲げる国民民主党との折り合いはついていない。日本維新の会は教育無償化や社会保険料の負担軽減を主張している。
野党の要求には新たに巨額の財源が必要となる政策が目立つ。昨年の総選挙で公約し、有権者の声を背負う以上、安易に譲歩はしないだろう。
ただ、野党が看板政策の実現だけに固執し、予算全体のチェックが甘くなるようなことがあれば、政治への失望を深めるばかりだ。財政健全化を置き去りにした膨張予算とならないよう、与野党とも責任ある主張と協調の姿勢が求められる。
首相の演説では「令和の日本列島改造」のキャッチフレーズも踊った。地域の持つ潜在力を最大限引き出して一極集中を是正し、多極分散型の多様な経済社会を構築するという。
過去の政権も同様の目標を掲げたが、深刻化する過疎高齢化や人材不足にあえぐ地方の現状に改善の兆しはない。石破首相は就任前から地方の実情に詳しく、地方創生に一家言あったはずだ。長年温めていたはずの踏み込んだ政策を期待したい。