社説

[フジ社長ら辞任]時代の感覚を見誤った

2025年1月29日 付

 元タレントの中居正広さんと女性とのトラブルに社員が関与していたとする週刊誌の報道は、港浩一社長と嘉納修治会長の引責辞任に発展した。港社長は会見で「(女性に対する)人権への認識が不足していた」と謝罪した。
 週刊誌報道を巡る港社長の会見は先週も開かれたが、参加者を制限し、映像取材を認めなかった。今回は参加者を制限せず400人超の記者らを受け入れ、日をまたいで10時間を超えて質問に応じた。社としての危機意識の高まりは理解できた。
 だが、改めて浮き彫りになったのは、人気タレントが引き起こしたトラブルに対して、社の対応が後手に回り続けた実態だ。トラブルを把握しても中居さんに対して正式な調査をせず、何事もなかったかのように複数の番組で起用し続けた。
 性被害などを告発する「#MeToo」運動に象徴されるように、あらゆるハラスメント行為への嫌悪感は世界中に広がっている。流行を先取りしてきたはずのテレビ局が、時代の感覚を見誤ったとしか言いようがない。
 トップの辞任とやり直し会見は、社の根幹にかかわる社会的な信頼と、経営危機を招きかねない状況を転換させる狙いだろう。新社長にはフジ・メディア・ホールディングス(HD)専務の清水賢治氏が28日付で就任した。3月末に予定されている第三者委員会の報告をめどに「全ての常勤役員が速やかな形で責任を取る」という。
 昨年12月の週刊誌報道によると、フジ社員を交えた食事会のつもりで出向いた女性が、直前に中居さんと2人だけにされてトラブルが起き、中居さんが多額の解決金を払って示談する事態となった。他にも、女性社員にタレントを「接待」させる場が常態化していたとも報じられた。会見でフジ側はトラブルがあったことを認めたものの、社員の関与や接待の常態化は否定し、第三者委の調査に委ねるとした。
 トラブルの具体的な中身が不明なだけに、会見では港社長らにいら立ちをぶつけるような質問者が相次いだ。だが、女性が望まない形でフジ側が聞き取り内容を公表することは、今後も含めて許されないのは当然である。
 一方で、女性の心身のケアやプライバシーを盾に、事実をはぐらかし、説明責任から逃れるような態度では納得は得られまい。あいまいな情報が、臆測を加速させる現実もある。フジ側だけでなく、伝える側もモラルや倫理観が問われることを忘れてはなるまい。
 フジテレビは社長や会長を歴任した日枝久フジサンケイグループ代表が、現在も強い影響力を持つとされる。統治不全や、特に女性の人権に鈍感な企業風土が疑われる深刻な事態だ。日枝氏が自ら説明し、責任問題も含めて見解を語る場をつくる必要がある。

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