社説

[春闘スタート]中小に広がる賃上げを

2025年1月30日 付

 2025年春闘が事実上、幕を開けた。経営側が労働組合との間で働く条件に関して交渉を重ね、3月中旬ごろに一斉回答する見通しだ。
 23、24年春闘で実現した大幅賃金アップの勢いが続くのか。賃上げ「定着」に向けた正念場の年となる。
 鍵を握るのが国内企業数の99%を占め、働く人の7割を雇う中小企業への広がりである。そのためには人件費・原材料費の上昇分が価格に反映されなければならない。業績好調が続く大企業は、部品・素材メーカーや下請けの中小企業との価格交渉に誠実に向き合ってほしい。
 労組の中央組織、連合は今春闘で全体の賃上げ目標を24年と同じ5%以上と設定しながら、中小は6%以上と引き上げた。
 傘下の労組は24年春闘で平均5.10%の賃上げを達成。33年ぶりに5%を超えた。一方で中小労組に限れば4.45%にとどまり、0.35ポイントの差だった前年の倍近く格差が開いた。大企業と中小企業の賃金価格是正への強い意思が新たな目標の上乗せに見てとれる。
 経団連も、今月発表した経営側の春闘指針で中小が目指す6%以上は「極めて高い水準」としたものの、価格転嫁できる環境づくりの重要性を指摘した。労使が前向きな姿勢で歩調を合わせるのは心強い。
 だが中小の価格交渉力は弱く、ハードルはかなり高いのが現実だ。
 中小企業庁が昨年発表した価格転嫁に関する調査で、できた社は5割、全くできなかったとの回答が2割と依然高かった。サプライチェーン(供給網)を追うと、下請けの段階が深まり、企業規模が小さくなっていくほどに価格転嫁率は低かった。多重下請けといった構造的問題が解消されないままでは、事態改善は難しいだろう。 
 昨年は日産自動車が業者への支払代金を一方的に減額したという悪質な「下請けいじめ」が発覚した。不当な減額要求は中小の賃上げを阻み、国内経済の力をそぐだけでなく、企業活動にも大きなダメージを与える。大企業は社会的責任を自覚するべきだ。
 政府も監視を強めている。発注・受注の上下関係の意識をなくして対等な交渉を促す下請法改正案を、今通常国会に提出する。併せて、中小企業の生産性向上のために人工知能(AI)など省人化に向けた設備投資への一層の政策支援も欠かせまい。さまざまな取り組みで環境整備を進めてほしい。
 雇用者全体の4割弱を占める非正規労働者の賃上げを目指す「非正規春闘」と名付けた取り組みは、今回で3年目に入る。保育・介護などのエッセンシャルワーカー、非正規公務員ら、これまで賃上げの波及が小さい分野にも運動を広げる。休暇や諸手当などの待遇改善も含めた成果を期待したい。

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