社説

[日米首脳会談]正念場の交渉これから

2025年2月9日 付

 石破外交の行く末を占う試金石とみられていたトランプ米大統領との初会談は、無難な滑り出しとなった。
 2期目の政権がスタートし、対面で会う2人目の外国首脳に石破茂首相を選んだトランプ氏は日本重視の姿勢を見せた。共同声明では安全保障や経済分野での連携を再確認した。一定の成果を上げたと言っていいだろう。
 だが油断は禁物である。いつ厳しい対日要求を突き付けてくるか予断を許さない。日本には国益にかなう主体的なかじ取りを望む。難しい対米交渉の「正念場」はこれからだ。
 トランプ氏は第1次政権で当時の安倍晋三首相と蜜月関係を築いた。一方で「相性」が合うかどうか心配されていた石破氏。信頼構築に向けた一歩を踏み出した。
 日本政府は対日理解獲得へ、周到な準備を重ねたとされる。石破氏は投資実績や今後の計画、事例を挙げて会談に臨んだ。
 防衛費の増額については2023~27年度の総額を計約43兆円に定めた方針を丁寧に説明し、日米同盟の抑止力強化に向けて応分の負担を既に果たしていると予防線を張った。トランプ氏は共同記者会見でこのことを「評価」すると同時に、日本に米国製の防衛装備品約10億ドル(約1510億円)分の売却を承認したと発表。さらなる上積みに圧力をかけた。
 北大西洋条約機構(NATO)各国の国防費引き上げ要求を明言するトランプ氏が、安保面で日本にどんな貢献を求めてくるかは警戒が必要だ。
 27年度以降の在日米軍駐留経費負担に関する交渉も始まる。石破氏は昨秋の総裁選で、在日米軍の法的特権を認めた日米地位協定の見直しを「必ず実現したい」と表明した。この機会に問題提起し、沖縄だけに基地負担を集中させない議論も求めたい。
 経済面では、日本製鉄による米鉄鋼大手USAスチールの買収計画を巡り、トランプ氏が会見で「投資」なら可能との立場を示し、前向きなメッセージを出してきた。日鉄の首脳らと会って詳細を交渉するという。楽観はできないが、訴訟にまでもつれた計画打開への手がかりにしてほしい。
 北朝鮮の拉致問題は、共同声明で日本が即時解決を実現する決意を表明し、米国が支持した。北朝鮮との関係改善に意欲を燃やすトランプ氏が米朝再交渉に着手すれば日本もチャンスを逃すことがあってはなるまい。
 トランプ氏は国際協調や自由貿易といった価値観を揺さぶり、気候変動対策の取り組みには後ろ向きな態度を取る。それらが結局は米国の戦略的利益にならない、と説得できるような「成熟した同盟関係」に向け、首脳間、外交当局間の緊密な対話の枠組みをつくっていかねばならない。

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