介護事業者の苦境が著しい。民間調査機関によると、倒産と休廃業・解散を合わせて2024年に事業停止となった件数は、784件に上った。ともに調査を始めて以降、最多だった。
中でも多いのが、ホームヘルパーが高齢者宅を訪れる「訪問介護」だ。事業者の収入に当たる介護報酬の引き下げやヘルパー不足が響いた。
団塊世代が75歳以上となる25年以降は介護需要が急増するとみられている。事業所の撤退が続けば、必要なケアを受けられない「介護難民」が生じる恐れがある。存続の危機を食い止めなくてはならない。
訪問介護を巡っては、24年度の介護報酬改定で基本料が減額となった。「在宅介護が破綻する」と懸念が出ていたが、現実になった形だ。
介護事業者の24年の倒産は前年から4割増の172件を記録した。休廃業や解散も2割増の612件に達した。休廃業のうち訪問介護は448件で、7割を占めた。
訪問介護はヘルパーが利用者の自宅を1軒1軒訪れて行う。多人数を1カ所に集める施設介護と違い、離れた家々の訪問は効率が悪く、もともと収益につながりにくい構造といえる。車両移動など物価高による運営コストの増加も追い打ちとなっている。
厚労省の経営調査によると、22年度訪問介護事業所は約4割が赤字経営だった。だが訪問介護全体では特別養護老人ホームなど他の介護サービスに比べ利益率が良好だったとして、報酬引き下げの根拠となった。
大手やサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)などで多くの入居者を効率よく巡回できるケースは黒字となる傾向があり、利益率を引き上げたとみられる。事業者や地域ごとの実情に見合っていないのは明らかだ。
立憲民主、国民民主両党は、介護事業者の緊急支援法案を衆院に共同提出している。議論を急ぎたい。
介護職員の人手不足の拡大も経営難の背景にある。ヘルパーは高齢化する一方、なり手が集まらず、サービスの継続や新規利用者の受け付けが困難になっている。政府は、介護職員は26年度に25万人、高齢者数がほぼピークとなる40年度に57万人が不足すると推計している。
焦点は処遇改善だ。毎月勤労統計調査によると、全産業平均の現金給与総額と老人福祉・介護事業は約8万円の差がある。賃上げに直結する介護報酬の引き上げを含め対策は急務だ。
鹿児島県は24年の倒産はなかったが、休廃業が3件だった。前年は8件あり、新型コロナウイルス禍の打撃も受け既に追い込まれている実態がある。民間の事業者が限られる地域では、自治体の支援や事業者の枠を超えた連携が必要だろう。