2023年の鹿児島県の農業産出額は前年より6%増の5438億円だった。2年続けて過去最高を更新し、7年連続で全国2位を保持した。農業県としての存在感を示したといえる。
農林水産省の発表によると、産出額首位の北海道は1兆3478億円、3位は茨城で4571億円だった。
経費を差し引いた上で国からの補助金などを加えた鹿児島県の生産農業所得(手取り)は、1534億円(2%増)で全国4位だった。実数でみればまずまずだが、農業産出額に占める割合は28%で全国最下位に沈んだ。
21年を除き18年から続く状況だ。後継者を育てるためにも、所得増につながる施策に本腰を入れる必要がある。
これまで県内の産出額の伸びを支えてきた肉用牛が、北海道に抜かれ2位となった点も気掛かりだ。
産出額を品目別でみると、1208億円(前年比1%減)の肉用牛がこれまで通りトップだったものの、1224億円の北海道に及ばなかった。農水省が都道府県別の統計を取り始めた1960年以来、初めて鹿児島が首位を逃した。
酪農経営が厳しくなる中、価格の高い和牛の出荷が道内で増えているのが理由という。子牛生産が盛んな鹿児島は近年の子牛価格の低迷も響いた。
2位に後退した肉用牛について、塩田康一知事は年頭会見で「首都圏を中心に消費拡大を図り、畜産産出額の底上げにつなげたい」と語った。有言実行で巻き返しを図ってもらいたい。
他の品目では、ブロイラー(肉用鶏)が初めて1000億円台となったほか鶏卵も伸び、好調な鶏が全体を押し上げた。ブロイラーは円安で輸入肉価格が上昇する中、安い国産への代替需要が高まり20%増の1067億円となった。鳥インフルエンザ多発で高騰した鶏卵も38%増の439億円だった。
サツマイモは焼酎用を含む加工向けの取引価格が上がり18%増の195億円だった。一方、茶は春先の気温低下による収量減や生葉価格下落で9%減の140億円、バレイショも寒波の被害で18%減の115億円となった。
同じ農業でも米、野菜のような「耕種」に比べ、「畜産」は飼料代や肥育用の子牛導入費で経費がかさみ収益性が低くなりがちだ。鹿児島は畜産の割合が7割と高く、所得低迷の要因とされる。たくさん作っても、もうけが少なければ生産者の意欲もそがれる。
塩田知事は農業での「稼ぐ力」向上のため、25年度当初予算案に生産基盤強化や飼料高の影響緩和、輸出拡大策を盛り込んだ。食料供給基地として確固たる地位を築く実効性の高い施策が求められる。
トランプ米政権の関税政策も心配される。生産者のやる気とやりがいを育める手だてを見いださねばならない。