社説

[兵庫知事選捜索]PR会社関与の解明を

2025年2月13日 付

 ボランティアが支えるはずの選挙運動を金で買ったのかどうか。交流サイト(SNS)が結果に大きな影響を及ぼしたとされ、全国の注目を集めた知事選を巡る疑惑なだけに、丁寧な事実解明が欠かせない。
 昨年11月の兵庫県知事選で斎藤元彦氏の陣営から金銭の支払いを受けたPR会社が、公職選挙法違反容疑で兵庫県警と神戸地検の家宅捜索を受けた。
 再選を果たした斎藤氏は、支払った71万5000円はポスター制作費などだったと説明している。これが認められれば違法性はない。
 だが、PR会社がSNS戦略の企画・立案と実行に深く関与していたとなれば話は別だ。公選法は選挙運動員に金銭や物品を提供する「買収」に加え、それらを受け取る「被買収」を禁じている。斎藤氏側が買収、PR会社側が被買収に問われる可能性がある。神戸学院大の上脇博之教授らが昨年12月、斎藤氏とPR会社の経営者を県警と検察に告発していた。
 疑惑の発端は選挙直後、経営者がインターネット上に公開した、斎藤氏陣営の広報全般を担ったとする記事だ。プロフィル写真の撮影にとどまらず、キャッチコピーの提案、SNSの公式応援アカウントの運用などを手がけたと書き込んでいた。選挙戦を「種まき」「育成」「収穫」の3段階で展開する構想を明かし、SNS戦略を取り仕切った実績を宣伝する内容だった。
 斎藤氏側は「SNS戦略や広報全般を任せた事実はない」と全面否定している。県警などの求めに応じて、ポスター制作費などの名目で発行されたPR会社からの請求書やデータを任意提出したという。
 一方、PR会社経営者は資料やデータの任意提出に十分に応じないため、県警などが強制捜査に踏み切った。
 ボランティアだったのなら、PR会社経営者が自らの書き込みには事実と異なる部分があったことを認め、71万5000円が何に対する対価だったのか、説明すればいいはずだ。
 斎藤知事は記者会見などで経緯を問われると「公選法に違反するような事実はない」「代理人弁護士に対応を一任している」と言及を避けている。こうした双方の態度が、疑惑を深める結果を招いたのは否めない。
 選挙とSNSを巡る金銭の支払いが疑惑を呼ぶ事態は他でも起きている。今月6日には、昨年の東京都知事選で落選した石丸伸二氏の陣営が、選挙集会をライブ配信した業者に人件費を支払った疑いが浮上した。
 今後、あらゆる選挙でSNS戦略が重要度を増すのは必至だろう。捜査を通してあぶり出される問題点を慎重に検証して、選挙の公正をゆがめたり、疑惑の温床となったりしないよう制度の見直しを検討する必要がある。

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