社説

[米ロ首脳の交渉]戦闘の終結を最優先に

2025年2月15日 付

 トランプ米大統領がロシアのプーチン大統領、ウクライナのゼレンスキー大統領と相次いで電話会談した。ロシアとウクライナの戦争終結に向けた仲介を本格化させるとみられる。
 トランプ氏は自身の交流サイト(SNS)に、プーチン氏と「大勢の死を防ぎたいとの考えで一致」し、緊密な協力を約束したと投稿した。ロシアのウクライナ侵攻から24日で3年になる。戦闘の一刻も早い終結を実現し、ウクライナの恒久的な平和への道筋を見いだしてほしい。
 会談後、トランプ氏は記者団にプーチン氏との会話の好意的な手応えを語った。両者はトランプ氏の1期目で個人的な関係を築いたとされる。今回も信頼できる交渉相手と認め合ったとみてよさそうだ。
 一方、ゼレンスキー氏についてトランプ氏は「世論調査の支持率は芳しくない」と冷ややかで、ウクライナに投じた軍事支援に関して「金を取り戻す」とも主張した。
 超大国のリーダーとして、仲介役を買って出るのは理解できる。だが、片方の当事者への肩入れが過ぎれば、信頼は崩れる。ウクライナの大幅な譲歩や妥協を前提として話を進めるのではないか。ロシアの違法行為を容認することにならないか。疑念は尽きない。
 ゼレンスキー氏は電話会談後、「ロシアの侵略を阻止し、恒久的な平和を保障するために米国と歩調を合わせる」と表明した。トランプ氏主導の流れを見極める構えだろう。
 トランプ氏はロシアがウクライナ南部クリミア半島を併合した2014年以前の国境に戻る可能性は低いとの見方を示した。ウクライナが求める北大西洋条約機構(NATO)加盟も「現実的ではない」と述べた。
 この二つは、ゼレンスキー氏にとって戦争を継続してきた「大義」にほかならない。大義を放棄して和平を受け入れるとは考えにくい。ウクライナの勝利のために支援してきた英国やフランスなど欧州諸国も同様で、トランプ氏の筋書きに協力するかは未知数だ。
 ロシアの侵攻が始まった当初、軍事大国に毅然(きぜん)と立ち向かう姿勢で国民から「英雄」と支持されたゼレンスキー氏だが、成果が見えないまま長引く戦況に国内は疲弊し、いら立ちが広がっている。停戦が実現して戒厳令が解除されれば、侵攻後延期されてきた大統領選が実施される。少しでも有利な条件で和平交渉を進められるか、一国のリーダーとしての真価が問われる。
 米ロ首脳の緊密な協力関係は悪いことではないが、当事者であるウクライナや関係の深い欧州諸国の頭越しでは危うい。停戦が実現しても、屈辱や怨恨(えんこん)が残れば次の紛争の種になる。トランプ氏には、大国の責任を自覚した丁寧な交渉を求めたい。

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