社説

[大崎再審棄却]「疑わしき」に背向けた

2025年2月28日 付

 裁判のやり直し(再審)を認める決定が3度出ながら、いずれも上級審で覆る異例の経過をたどる。1979年に大崎町で男性の変死体が見つかり、殺人と死体遺棄の罪で原口アヤ子さん(97)が服役した「大崎事件」だ。
 2020年に申し立てた第4次再審請求では地裁、高裁ともに認めなかった。弁護団は特別抗告。最高裁第3小法廷が、このほど棄却を決定した。
 だが決定文は、弁護団が提出した新たな証拠の医学鑑定について「証明力の限界」を指摘すると同時に、「死因の一つの可能性」を示すことも否定していない。それでも、再審の扉は開かなかった。「疑わしいときは被告人の利益に」という鉄則に背を向けていないか。大崎事件は問うている。
 確定判決によると1979年10月、道路脇の溝付近で倒れていた男性が発見され近隣住民2人が自宅に運んだ。その後、原口さんら親族が共謀し、タオルで首を絞めて窒息死させたと認定した。
 原口さんは取り調べ段階から一貫して否認。客観的証拠はほとんどない。共犯者の自白が有罪を支える。
 これまで再審開始を決定した第1次の鹿児島地裁、第3次の同地裁、福岡高裁宮崎支部では、この自白の信用性が揺らぐ、と判断した。有罪の核となる旧証拠への疑いが示された形だ。
 第4次ではさらに、被害者は窒息死ではなく、「事故死」だった可能性を示す医学鑑定を弁護団が新証拠として提出し、大きな争点となる。再審開始へ「今度こそ」の期待は高まった。
 だが最高裁は、その価値を一定程度認めながらも、確定判決の証拠関係は強固だと結論づけ、地裁、高裁の両決定を支持した。新証拠と、数次に及ぶ請求審で積み上げてきた旧証拠の総合的な検討は十分だったのか。残念ながら疑問符が付く。
 刑事裁判の最大の役割は「無実の者を処罰しない」こととされる。再審手続きによって救済されるべき人を門前払いしてしまう過ちは許されまい。
 ただ今回、裁判官5人のうち1人が「再審開始決定すべきだ」との反対意見を付けた。新証拠が新たな知見を提示し、尊重に値すると評価。「確定判決の証拠構造全体を動揺させるものであるから、新旧全証拠の総合評価を行う必要性がある」と明示した。
 大崎事件の再審請求で、最高裁の裁判官が反対意見を付けたのは初めてという点に注目したい。弁護団は第5次請求審を視野に入れる。
 再審を開くかどうかで延々と時が過ぎていく現状を変えなければならない。制度の不備から「証拠隠し」の非難も挙がり、再審法制見直しの議論がかつてないほど高まっている。法務・検察はメンツにこだわらず、冤罪(えんざい)の迅速な救済に道を開いてほしい。

日間ランキング >