欧州各国において、「自国第一主義」を掲げる極右・右派勢力の拡大が目立っている。
欧州連合(EU)をけん引する経済国ドイツの総選挙でも、反移民の右派「ドイツのための選択肢(AfD)」が前回から得票率をほぼ倍増させ、初めて第2党に躍り出た。
移民に一定の規制が必要なのは事実だが、敵視する傾向がこれ以上強まれば差別が横行し、分断は深まるばかりだ。人口減による労働力不足を見据え、外国人材に門戸を開こうとしている日本も高みの見物ではすまされない。
ドイツ連邦議会(下院、定数630)の総選挙は先月23日に投開票され、中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が得票率29%で第1党となった。メルケル政権以来4年ぶりに政権与党に復帰する見通しだ。
ただ単独過半数には届かない。次期首相就任が見込まれるメルツCDU党首は、第3党につけた中道左派の現与党、社会民主党(SPD)との連立交渉に入る方針を示す。4月中旬ごろまでには政権を発足させたい意向だ。
いっぽう、「選挙の真の勝利者」とも目されるのが、得票率21%で第2党となったAfDである。2013年の結党当初は「泡沫(ほうまつ)政党」扱いされたが、「反移民」を旗印に旧東ドイツ側で大きく支持を伸ばしてきた。
東西統一から30年以上がたっても東部は西部との経済格差を抱える。メルケル前政権が進めた寛容な移民政策はシリアなどから大量の難民が殺到する結果を招いた。「難民や移民が優先されている」と反発の声は根強い。
「国境での入国規制」「不法移民の強制送還の徹底」などを公約にするAfDが不満の受け皿になったのは明らかだ。昨年、改正入管難民法が成立した日本でも今後、多くの外国人が恒常的に滞在することになるだろう。宗教や文化の摩擦、社会の分断をあおらない対策を考えておくべきだ。
ドイツはナチスの反省から、戦後、基本法(憲法)で迫害を受けた外国人の「保護請求権」を明記し、人道重視を世界に示す存在だった。
だが昨年以降、難民らによる殺傷事件などが相次ぎ、もはや無制限の受け入れは難しい。CDUのメルツ党首も移民政策の厳格化を訴えている。排外主義に陥らないよう、極めて繊細なさじ加減が迫られる。
ドイツは昨年まで2年連続のマイナス成長に陥った。景気低迷の打開やエネルギーの安定供給への取り組みは急務にもかかわらず選挙戦は移民・難民問題に焦点が当たり、その他重要政策の議論は置き去りになった。欧州で最大規模の軍事支援を続ける対ウクライナ政策の行方も周辺国が固唾(かたず)をのんで見守る。政治的空白を長引かせないために新政権発足を急がねばならない。