社説

[核禁止条約会議]廃絶の理想手放すまい

2025年3月7日 付

 核兵器禁止条約の第3回締約国会議が、ニューヨークの国連本部で開かれている。条約締約国が共有する「核なき世界」実現への決意を支持したい。
 ロシアのウクライナ侵攻は3年過ぎても終結しない。米国大統領に返り咲いたトランプ氏は、多国間協調の破壊もいとわない自国第一主義の強硬路線を鮮明にする。強国理論を振りかざす二つの核大国が、核軍縮に前向きとは到底言えない。
 不確実性を増す国際情勢にかかわらず確実なのは、核兵器が人類滅亡の具体的な脅威である事実だ。核廃絶の理想を決して手放してはなるまい。
 会議には条約を主導するオーストリアやメキシコ、今回議長国のカザフスタンなど68カ国・地域が参加している。日本は過去2回に続いて今回も不参加だ。唯一の戦争被爆国として核保有国と非保有国の橋渡し役を自認しながら、政府が不参加を選択し続けるのは残念でならない。
 日本は米国の「核の傘」に頼っているとの理由で条約を批准していない。だが、オブザーバーとしての会議参加は可能だ。岩屋毅外相の「参加すれば誤ったメッセージを与え、平和と安全の確保に支障を来す恐れがある」との説明は、納得し難い。
 昨年のノーベル平和賞受賞を追い風に核軍縮の機運を高めようとしている日本原水爆被害者団体協議会(被団協)から「被爆者の声を無視している」と憤りの声が上がるのは当然だろう。被爆者と政府が連携し、核兵器使用の結果のむごたらしさと愚かさを国際舞台で発信すべきだ。これを上回る大切なメッセージがあるとは思えない。
 石破茂首相は昨年の自民党総裁選中、米国の核を日本で運用する「核共有」に言及する場面があった。改めて被爆者団体と対話の機会を設けるなどして核抑止論の危うさと非人道性を直視し、再考してもらいたい。
 スウェーデンのストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、世界の核弾頭総数は2024年1月時点で推計1万2121発だ。保有国は古くなった核兵器を最新技術で改良する「核の近代化」を進め、質的な軍備拡張競争は激化している。
 核保有国も参加して原則5年に1度核軍縮を協議する核拡散防止条約(NPT)再検討会議は、過去2回続けて決裂した。次回は26年に予定されるが難航は必至と予想される。
 こうした状況だからこそ、核軍縮の停滞に不満を募らせた非保有国と市民社会が主導し、保有や使用を禁じた核禁止条約は重要性を増す。
 米ロなど核保有国や北大西洋条約機構(NATO)加盟国は参加していない。理想を共有する場として締約国会議に加わり、条約を育てる側に回って危険な流れを転換させてほしい。

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