社説

[県立高ビジョン]将来像を描いた議論を

2025年3月9日 付

 鹿児島県は、2025年度当初予算案に「県立高校の将来ビジョン検討事業」を盛り込んだ。有識者による委員会を立ち上げ、生徒の多様な学びのニーズと減少する生徒数に対応する在り方を協議する計画だ。

 県教育委員会は2000年代に入り、高校づくりの基本計画を策定して小規模校の再編を進めてきたが、地元自治体の根強い反発などを受けて11年に方針を転換。地域の実情に配慮し学校単位で検討する形に変更した。学校の統廃合は、中高一貫の楠隼高校開校を最後に実施されていない。

 計画の見直し以降も入学者は減り続け、学校の小規模化は止まらなかった。5、6の両日に実施された公立高校の入学試験では、定員割れした学校が全体の約9割を占めた。今回の事業は、個別の検討方式では高校教育が立ち行かなくなる恐れがある危機感の表れとも言える。新たに立ち上げる委員会では従来の考え方にとらわれず、学ぶ生徒を中心に地域の将来像も考慮に入れたビジョン設計が求められる。

 県教委が2000年代に進めた高校の再編は、有識者でつくる「公立高等学校改革推進協議会」の最終報告を踏まえて策定された「かごしま活力ある高校づくり計画」に基づく。1学年4~8学級を適正規模とし、1島1校の学校を除く3学級以下の小規模校を再編対象とし取り組んだ。

 県教委は計画の見直し以降、小規模校同士の連携を図ったり、学科を再編したりとさまざまな活性化策に取り組んできた。小規模校を抱える自治体でも財政面の支援や魅力発信に努めてきた。一方で定員に満たない学校は学級数が減り続け、現在は半数が1学年3学級以下の小規模校である。配置される教員も減らさざるを得ず、別教科の教員が臨時免許で授業を担うなど教育の質の低下は否めない。

 入学者は今後も右肩下がりで減っていく予測となっている。学校基本統計(24年5月1日現在)によると、今の小学1年生は、中学3年生より約2000人少ない。この世代が高校に進学する9年後は、南薩、北薩、熊毛、大島の4学区で子どもの数が各地域にある公立高校の募集定員を下回る見通しだ。それぞれの学区には私立高校もあり、学区外の高校に進学する生徒もいる。通信制高校を希望する生徒が大幅に増えるなど子どもたちの高校教育へのニーズも多様化している。

 塩田康一知事は今回の事業に「再編や定員見直しも排除せず、幅広く議論してもらう」という考えを示す。私立高校も考慮し、どんな学科をどのような規模で各地域に配置した姿がベストなのか。通学手段はどう確保するのか。それぞれの地域の実情や他県の事例も見ながら、あらゆる角度からの検討が必要となろう。

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