桜島と鹿児島市街地を結ぶ桜島フェリーが、10月から深夜便の一部を廃止して「24時間運航」に幕を下ろす。赤字を減らすための経営判断である。
平日102便(土日112便)のうち、双方の港を午前0時~3時半に出港する計8便がなくなる。燃料代や作業員の委託料で年3500万円のカットを見込む。
フェリー事業の在り方を検討してきた市船舶事業経営審議会は昨年末、住民や緊急車両に対する配慮を求めた上で、深夜帯の見直しを提言していた。市船舶局は数回にわたり利用状況を調査し、1便当たり旅客4.9人、車両5.2台とのデータを示している。
数字だけ見れば赤字の垂れ流しと言われても仕方なく、「廃止やむなし」との市民の声もあるだろう。ただ、県民が慣れ親しんだ交通機関であり、特に島民にとっては、深夜でも市街地と行き来できる利便性は暮らしの安心のよりどころだ。影響は小さくない。
事業の収支悪化は、2014年度に東九州自動車道が鹿屋まで延伸し、薩摩半島から大隅半島へ行く太いパイプができたのが転機となった。同じ頃、桜島の噴火警戒レベルが引き上げられ、桜島を避ける傾向も重なった。移動手段の選択肢が増えて全体のパイが広がるのではなく、フェリー利用減につながったのは残念だ。
15年度には赤字に転じ、19年度以降は新型コロナウイルス禍も加わり、旅客・車両ともに利用が落ち込んだ。運航収益の8割を占める車両が回復せず、9年連続の赤字となっている。市からの補助金や国からの借り入れがなければ資金不足が続く状況で、「経営健全化団体」に陥る恐れも出てきた。そうなれば国の指導の下で厳しい経費削減や資産売却が迫られるのは必至だ。
市船舶局も経営改善に無策だったわけではない。事業継続に向けて23年度から所有船5隻を4隻に減らし、運行間隔を15分から20分に伸ばす減便をした。長く大人片道150円だった運賃は、消費増税に伴う値上げを経て24年夏には250円に引き上げた。
深夜便は1984年の開始から40年以上続いてきた。ピーク時は平日170便運航し、フェリーが「生活の足」となっている島民にとって、利便性の低下に不満や不安があるのは当然だ。累積赤字が27億円を超えると聞けば、そもそも深夜便廃止だけで財政状況が好転するのか懸念も大きい。経営合理性を主眼に議論すれば、遠からず昼間の減便にも踏み込む可能性がある。
住民が自由に移動できる権利をどこまで保障するか。交通弱者になるかもしれない多くの市民も含め、考える好機にしなければいけない。
フェリーは桜島爆発時の避難船でもある。防災面でも島民の安心安全に寄与していることを忘れてはならない。