トランプ米大統領と、ウクライナのゼレンスキー大統領の会談決裂から10日余り。ロシアによる侵略を巡り、ウクライナは米国が提案した30日間の停戦を受け入れた。
実現すれば2022年の侵攻開始以降、初めて戦闘が止まる。和平に向けた第一歩になる可能性がある。
ロシアも停戦案に応じて、攻撃を全面停止するべきだ。双方が一刻も早く流血を食い止めるための交渉を始めなくてはならない。
米ウクライナ首脳会談の決裂後、トランプ氏は軍事支援や機密情報提供の停止といったウクライナの敗戦につながりかねない手法を取った。米国の支援を失い劣勢のウクライナに、停戦案を拒否する余裕はなかったといえる。
首脳同士の激しい口論によって損なわれた米ウクライナ関係は、ひとまず修復したかに見える。だが侵略を受けたウクライナ側をねじ伏せる形で窮地に追い込んだ米国の交渉姿勢は、危うい。かねてプーチン氏に好意的なトランプ氏が、ロシア有利で事態を進めないか懸念が膨らむ。
トランプ政権の呼びかけに、ロシアが応じるかが焦点だ。プーチン氏は、ロシアが占領した領土のロシア領としての国際的承認、ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)非加盟と中立化などを要求している。米国の支援停止の隙を突いて軍事的優勢を固めただけに、出方は不透明だ。
トランプ氏がロシア寄りの発言を繰り返す背景には「プーチン氏のメンツ」をつぶしてはならないとの配慮があるとの見方ができる。ロシアに融和的な姿勢に乗じ、プーチン氏が侵攻目的の完遂を目指そうとすれば米ロ関係の悪化につながりかねず、得策ではあるまい。折り合いを付けるべきだ。
ウクライナのゼレンスキー大統領は当初、ロシアが併合した南部クリミア半島を含む全土の武力奪還を目指した。戦闘長期化を受け、一部のロシア占領地域については外交的解決を模索する現実路線にシフトした。その際に重視したのが、支援国などによる「安全の保証」の確約だった。
今回の停戦案には、ロシアの再侵攻を防ぐ「安全の保証」の具体策は示されていない。停戦はたとえ合意しても維持するのが難しいのは、過去の経緯からも明らかだ。
14年春のロシア軍部隊によるウクライナ東部ドンバス地域への限定的侵攻以来、ウクライナ、ロシアなどの間で「ミンスク合意」が結ばれたが、守られず破綻した。恒久的な和平を実現するには、ウクライナをどう守るかの仕組みづくりが不可欠となる。
カナダで始まった先進7カ国(G7)外相会合は、停戦案が主要議題となる。和平機運をつぶさぬよう、日米欧の連帯が試される。