社会一般とはかけ離れた永田町の感覚が、また露呈した。
石破茂首相の商品券配布問題が、2025年度予算案の審議を直撃している。立憲民主党などの野党は首相の政治倫理審査会出席を求め、自民党内からも苦言が相次ぐ。少数与党の国会運営は不透明感を増すばかりだ。
首相は参院予算委員会で「社会通念上、世の中の感覚と乖離(かいり)した部分が大きくあった」と陳謝した。自民党が裏金疑惑で有権者の厳しい審判を受け、与野党で政治資金改革を論議しているさなかだ。信頼回復の先頭に立つべき首相自身が新たな問題を起こすとは、緊張感の欠如にあきれるほかない。
商品券は首相が自民党衆院1期生15人を首相公邸に招いた今月3日の会食に先立ち、石破事務所が配った。1人当たり10万円で、首相は「お土産代わりにポケットマネーで用意した」と説明した。
参加議員の中に首相の選挙区の有権者はいないので、公職選挙法違反とはいえまい。だが、政治資金規正法は個人から政治家個人への「政治活動」に関する金銭等の寄付を禁じている。公邸で開かれ、正副官房長官も参加した会合である。これが単なる慰労の場で、商品券が私的な「お土産」だったとの首相の言い分には無理がある。
社会の関心を集めているのは、1人10万円、合計150万円が一晩の会食で行き交う金銭感覚だ。政治の世界との絶望的な距離を思い知った国民は多いはずだ。
商品券配布が慣例なのか、参院予算委で野党議員から問われた首相は「歴代首相がそうであったかどうか、全て存じない。お答えする立場にもない」と言及を避けた。一方で、時の首相や党幹部から商品券や仕立券を受け取った経験を語る議員は少なくない。
石破氏は首相就任前、自民党国会議員の支持基盤が弱点といわれた。仲間づくりが苦手な「一匹おおかみ」との定評を返上しようと、新人議員の取り込みを狙うこと自体は理解できる。だとしても国民からは到底支持されない慣例を踏襲するのではなく、政策を切磋琢磨(せっさたくま)する対話を活発化させて地道に同志を増やすべきだった。
野党は首相の説明を「詭弁(きべん)」と指弾し、政倫審での弁明を求めて追及の構えだ。予算案審議だけでなく、企業・団体献金の禁止を巡る協議や年金制度改革など重要法案の審議も控えている。夏の参院選を視野に、石破政権を弱体化させておこうというもくろみが先に立てば、国民に見透かされて政治不信は一層深まるだろう。
今回の商品券配布にとどまらず、政界の「慣例」として踏襲される金銭等の授受の実態を明らかにして、決別する。与野党でこの覚悟を固め、腰を据えて取り組んでもらいたい。