イスラエル軍がパレスチナ自治区ガザへの大規模空爆を実施した。ガザ保健当局によると400人以上が死亡した。イスラエルのネタニヤフ首相は「始まりに過ぎない」と攻撃の継続を示唆し、地上作戦も再開した。
2023年10月に始まったイスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘は、今年1月に停戦合意が発効した。第1段階として戦闘を6週間休止し、双方が人質を段階的に解放しつつ、イスラエル軍がガザから撤収する第2段階の恒久停戦につなげていくはずだった。
第1段階は今月1日に期限を迎えたが、協議が膠着(こうちゃく)状態に陥っていたのは確かだ。だからといって、ガザ全域を空爆する強硬手段は合意の軽視にほかならず、容認できない。
ハマスが報復攻撃に踏み切れば、合意は完全に崩壊して暴力の連鎖が再開する。ガザ市民が切実に必要としているのは命をつなぐ人道支援であり、人道危機の再来では断じてない。恒久停戦に向けた協議を再スタートできるよう、双方に強く自制を求めたい。
協議が第2段階に進めないのは、暫定的な停戦延長とさらなる人質解放を求めるイスラエルと、第2段階への即時移行を主張するハマスが歩み寄れないからだ。米国がハマスと直接交渉し、停戦延長を提案したことも結果として事態を複雑化した感がある。
第2段階に入れば、イスラエル軍はガザに配置した多くの部隊を撤収しなければならない。部隊はそのままで人質の帰還だけを実現したいという思惑が透け、ハマス側は受け入れにくいのだろう。
ネタニヤフ首相には、国内の対パレスチナ強硬派の支持を取り付けねばならない事情がある。極右政党「ユダヤの力」は、1月の停戦合意に反対して政権を離脱した。今月末までに国会で2025年の予算案が承認されなければ、ネタニヤフ氏は内閣解散・総選挙に追い込まれる。「ユダヤの力」の協力は政権継続に欠かせない。
「ユダヤの力」は恒久停戦に向けた協議に反対し、今回の攻撃再開を歓迎している。ネタニヤフ氏の政権構造を考えれば、停戦合意を順守する意思は最初から薄かった疑いも消えない。
ただ、国民に厭戦(えんせん)気分が広がっている。退役する職業軍人が増え、予備役招集に応じない人も増加しているとの指摘もある。これ以上の流血を防ぐ国内世論の高まりを期待したい。
ガザ市民は約15カ月間の戦火をかいくぐって命をつなぎ、がれきと化した街にようやく戻って生活再建を目指している。そんな民間人を再び絶望に突き落とす攻撃を、国際社会が看過していいはずがない。イスラエルに強い影響力を持つ米国のトランプ大統領は、恒久停戦の道筋を描いて真価を発揮してもらいたい。