文部科学省が解散命令を請求した世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に、東京地裁が解散を命じた。長年の献金勧誘による200億円超の甚大な被害を認め、解散命令は「必要でやむを得ない」とした。
同じように宗教法人法に基づく解散命令が出たオウム真理教など過去2件の事例は、幹部の犯罪行為が根拠だった。「民法の不法行為」を根拠にしたのは今回初めてだ。不当な献金集めの悪質性を踏まえた重い判断と言える。
これは被害者救済に向けた第一歩に過ぎない。教団が解散しても賠償や財産移転、宗教虐待への対応といった課題は多い。政府は切実な声を聴き被害回復の取り組みを急がねばならない。
宗教法人法に解散命令の規定があるのは、宗教法人が法令に違反したり、「公共の福祉」に著しく反したりすることは許されないからだ。判例から、請求要件は「刑法等の実定法規に違反するもの」と解釈されてきた。
旧統一教会の場合、教団幹部が立件された刑事事件はない。そのため2022年7月の元首相銃撃事件を機に高額献金被害がクローズアップされた後も、文化庁は請求に後ろ向きだった。
だが世論の批判の高まりを受け、岸田文雄首相(当時)は「民法の不法行為も入り得る」として解釈変更に踏み切る。これで解散命令請求が視野に入った。教団と自民党との関わりに厳しい目が向き、政権浮揚の思惑もあったに違いない。
文化庁は計7回の質問権を行使。民事判決、証言など5000点の証拠資料を基に、不法行為の「組織性、悪質性、継続性」が立証されるとして23年10月、解散命令請求を地裁に申し立てた。
教団側は政府の法解釈変更に一貫して反論してきた。しかし教団に過料(行政罰)を科す別の裁判で、最高裁が「民法の不法行為も含む」との初判断を示し、既に決着している。地裁はこれを踏まえて教団の主張を退けた。
憲法は「信教の自由」を保障する。宗教法人への解散命令は慎重でなければならない。だからこそ地裁は今回、必要でやむを得ない場合に認められるべき、とする限定的な判断の枠組みを示した。その上で、教団に事態改善は期待できず「法人格を与えたままにしておくことは極めて不適切」と結論付けた。新たな被害の抑止効果は大きいはずだ。
教団側が決定を不服として東京高裁に即時抗告すれば裁判はさらに続くが、第1段階の司法判断によって解散は現実味を帯びつつある。見据えた対応が今から必要ではないか。被害者への損害賠償の原資となる教団財産が流出・散逸しないよう、国は管理状況や移動などの監視を強めるべきだ。
被害の掘り起こしも進め、幅広い救済に向けた支援を強化してほしい。