社説

[フジ報告書]人権軽んじた企業風土

2025年4月3日 付

 元タレントの中居正広氏と女性とのトラブルを巡るフジテレビの対応などを調査した弁護士による第三者委員会が、報告書を公表した。「業務の延長線上」で、中居氏による性暴力があったと認定した。
 他にも社員が被害を受ける類似の案件は複数あり、全社的にハラスメントがまん延していた。それが放置されている実態も白日の下にさらした。
 公共の電波を利用する、大手テレビ局内部の女性に対する扱いには憤りを覚える。人権を軽んじる企業風土が問われる。同様の事態が周囲で起きていないか、他の企業、社会全体にとって他人事ではないと肝に銘じたい。
 報告書によると女性は当時フジのアナウンサー。中居氏との圧倒的な力関係の下で食事の誘いを断れず性被害に遭った過程が明らかになった。一方、フジ側はこうした心情に寄り添えず、女性はさらに追い詰められていった。
 性暴力の報告を受けた港浩一社長(当時)ら幹部は「プライベートなトラブル」と即断して、中居氏の番組出演を継続させた。元編成部長は、中居氏の依頼で女性に見舞金名目の現金を届け、中居氏に弁護士を紹介した。これらを「口封じ」「二次加害行為」と断じたのは理解できる。
 性被害は社内のコンプライアンス部門にも共有されなかった。性暴力という人権侵害への理解を欠き、経営者の危機管理として大きな誤りだ。
 「ハラスメントに寛容なフジ全体の企業体質」も非難した。取引先の歓心を買うため、女性アナウンサーを接待に動員することが常態化していた。
 加害者側は厳正に処分されないどころか、昇進した事例もあった。社員が声を上げられず、さらなる被害を生む「負の連鎖」を生じさせてしまった。
 背景にあるのは、組織の閉鎖性だ。報告書は中居氏の番組継続の意思決定が「同質性の高い壮年男性3人のみで行われた」と指摘。人権尊重や企業統治上の問題点として、男性優位の「旧態依然とした昭和的な組織風土が残存している」ことを挙げた。
 報告書公表の4日前、フジは取締役相談役の日枝久氏の退任を含む刷新人事を発表した。報告書は、同社の中枢に40年近く君臨した日枝氏の経営責任にも言及する。このまま退場して説明責任を免れるのは許されない。
 視聴者やスポンサーの不信はエンターテインメント業界全体にも向けられている。当事者である中居氏も何も語らぬままなのだろうか。
 性的暴力を個人間の問題にすり替えたり、ハラスメントの被害者ではなく加害者が守られたりする風潮は、フジに限らずどの組織でもあり得ることだととらえなければなるまい。相談窓口が設置されていても、機能しているか、総点検することが必要だ。

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