トランプ米政権は「相互関税」の導入を発表した。高関税を課す貿易相手国に対抗し米国も引き上げる政策だ。
全ての国・地域に一律10%を5日発動し、9日には貿易赤字などの状況を踏まえた上乗せに踏み切る。日本は計24%、中国34%、欧州連合(EU)は20%となる。米国が主導し、戦後一貫して築いてきた自由貿易体制を突き崩す衝撃的な内容であり看過できない。
中国やEUは即座に対抗措置を言明した。だが貿易戦争が激化すれば、世界経済の縮小リスクは増す。混乱を避けるため、日本を含む各国が協調し全面撤回を強く働きかける必要がある。
日本に24%を課したのは、日本が実質的に46%の関税をかけているとみなし、その半分程度と設定したからだ。日本が米国製品に課している関税率だけでなく、非関税障壁なども算入したとしている。ただ算出方法はあいまいで、納得できるものではない。
関税強化には米国内に生産を誘導し、貿易赤字解消や製造業の復活につなげる狙いがある。米国のモノの貿易赤字は2024年に1兆2000億ドル(約170兆円)に達しており、短期的には効果が上がる可能性はあろう。しかし輸入品の値上げでインフレが再燃し景気後退を招けば、世界経済へのさらなる混乱要因になる。
トランプ政権は予告通り、輸入自動車に対する25%の追加関税も発動した。乗用車の税率は現在の2.5%から27.5%に拡大。エンジンやトランスミッションなど主要備品にも5月3日までに適用する予定だ。
自動車は日本の対米輸出総額21兆円のうち3割近くを占める基幹産業だ。部品メーカーなど裾野は広く、550万人の雇用を抱える。関税により輸出が減少すれば日本経済への影響は極めて大きい。
大手メーカーは米国での現地生産の拡大など対応を迫られる。一方で米国向けの製品に部品や素材を供給する中堅・中小企業が打撃に耐えられるようにする必要がある。日本政府に求められるのは、それらへの的確な支援だ。
まず政府系金融機関から融資を受けられる要件を緩和し、資金繰りを支える方針を打ち出した。米国に生産拠点を移す場合の投資の後押しや、日本貿易振興機構(ジェトロ)などを使った人的支援の検討も必要だろう。
鹿児島県内の輸出産業への影響も懸念される。業界団体によると、県内には金型や機械加工など自動車関連企業が74事業所ある(2月現在)。県の23年度農林水産物輸出額367億円のうち米国向けは170億円と、国・地域別で最大だ。養殖ブリや欧米の抹茶ブームを背景にした茶など輸出が伸びている品目もある。県・自治体は事業所や生産者から丁寧な聞き取りを継続し、必要な支援につなげてほしい。