社説

[南海トラフ地震]正しく恐れ減災強化を

2025年4月5日 付

 東海沖から九州沖に連なる震源域が一気にずれ動いて巨大地震が発生し、太平洋沿岸を中心に最大29万8000人が犠牲となる。経済被害は最大292兆円に達し、2025年度政府予算の2.5倍を超える-。

 政府の作業部会が南海トラフ巨大地震の新たな被害想定を盛り込んだ報告書を公表した。東日本大震災をはるかに上回る打撃を社会経済に及ぼすと警鐘を鳴らす。同時に、対策次第では被害を減らせる可能性も示した。正しく恐れ、減災につなげることが大切だ。

 死者の7割、21万5000人を津波による犠牲と想定する。すぐ避難する人の割合を20%と仮定し計算している。ここを70%に増やせば9万4000人まで減らせる。現状90%の住宅耐震化率を100%まで高めれば、建物倒壊による死者が7割以上減ることも明示した。

 ライフラインへの影響も大きい。発災直後に最大2950万軒で停電が発生、上水道は1日後に最大3690万人が利用できなくなる。道路被害は4万3200カ所に及ぶ。

 今回初めて、災害関連死者数も試算した。最大で5万2000人。東日本大震災の3808人(3月末時点)と比べても桁が違う。熊本地震や能登半島地震では建物倒壊などによる直接死よりも関連死が多かった。トイレ不足など劣悪な避難所環境をはじめ、食料や水の備蓄不足、福祉サービスを必要とする要支援者の対応といった能登半島地震などで浮き彫りになった教訓を踏まえた対策は欠かせない。

 鹿児島県内は最大で死者1400人、負傷者6000人と想定する。大半が津波による被害だ。全員がすぐ避難を始めた場合、犠牲者はほぼゼロとなる。

 津波の高さは屋久島町の13メートルが最大と想定された。1メートルの津波が到達するまでの時間は、最も早い中種子、南種子町が27分。一人一人の意識と行動次第で実際の被害を抑えることが可能な数字と言えそうだ。

 震源域全体が一度に活動する「全割れ」ではなく、震源域の東西どちらかで「半割れ」の大きな地震が起き、遅れて反対側でも発生するケースも想定した。半割れ後に避難意識が高まれば、後発地震の死者を減らせるとしている。デマや流言に注意し、信頼できる発信元からの情報入手を心がけたい。

 南海トラフ巨大地震はおおむね100~150年間隔で起きている。前回は約80年前だ。政府の地震調査委員会は1月、今後30年以内にマグニチュード8~9規模の地震が発生する確率を「80%程度」とした。あすかも、数十年先かもしれない。具体的な時期の予測は難しいが、今できることはある。

 津波は自宅に到達するのか。到達時間が何分で、どこへ逃げればいいのか。準備すべき物は何か。家族や職場、学校で改めて話し合う契機にしたい。

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