社説

[相互関税第2弾]保護主義の連鎖阻止を

2025年4月10日 付

 トランプ米政権による「相互関税」の第2弾が発動された。第2次大戦後の80年間、米国主導の下で目指してきた自由で開かれた貿易体制は転換点を迎えた。

 高関税を課せられた国・地域は、対米輸出の減速が避けられない。貿易が縮小し、世界的な景気後退を招く恐れは大きい。

 他国に市場開放を促し、その恩恵を最も享受してきたのは米国自身ではなかったか。高関税政策の強行は、戦後の国際秩序を破壊する暴挙と言える。

 今、国内だけでサプライチェーン(供給網)を完結できる国がどこにあるというのだろうか。米国が自由貿易のルールを一方的に覆そうとする中、各国には保護主義の連鎖を食い止められるかが問われる。

 金融市場は大きく動揺している。貿易摩擦が激化すれば、世界同時不況に陥るとの見方も浮上する。現に中国は「報復関税」を発動。米国はさらなる上乗せに出た。ともに「自国第一」の姿勢を懸念せざるを得ない。

■「米国に雇用戻す」
 相互関税の第2弾は、既に導入した10%の一律関税に続き、貿易赤字額などに応じて個別に高関税をかける措置だ。貿易が不均衡だとする約60カ国・地域に税率を上乗せした。

 各国に対する税率は米国が独自に算出した。日本が実質的に46%の関税をかけていると見なし、その半分程度の24%としたが、根拠にしたのは2024年の対日貿易赤字額を日本からの輸入額で割った数字だったとされる。

 全ての国からの輸入品についていえば、日本の関税率の平均は3.9%だ。3.3%の米国と大差はない。単年度の貿易赤字を基にした米国の計算方法は、あまりに大ざっぱだ。

 第2次大戦後の自由貿易体制は、1948年発効の関税貿易一般協定(ガット)にさかのぼる。関税などの障壁を下げて取引を増やすことが、各国の利益につながるという思想の下、米国が主導し、90年代に世界貿易機関(WTO)へ引き継がれた。

 トランプ氏は、第1次政権時から自由貿易に異を唱え、関税を武器に保護主義的な通商政策に転換した。第2次政権では、グローバル化で生産が国外に流出し、米国の雇用が失われたとの考えを先鋭化。「米国は世界中からむしり取られてきた」と繰り返し訴えてきた。そのため中国などのライバル国だけでなく、政治経済上の関係が深い友好国にも照準が向けられた。

 米国の変質の背景にあるのは、国内にたまる不満だ。製造業の衰退で白人労働者が苦境に陥り、富の格差が拡大した。トランプ氏は巨額の貿易赤字を解消するため高関税で対抗し、「米国に雇用を戻す」と息巻いている。

 相互関税の発表後に主要国で株価が乱高下しているが、米政権は短期的な反応だとの見方を示す。トランプ氏は「米国ははるかに強くなり、最終的には他に類を見ない国になるだろう」と強弁している。

■交渉の余地に含み
 関税は結果として米国の消費者が支払う価格に上乗せされる。米国内のインフレの再加速を招きかねず、トランプ氏がいつまで強気を続けられるのか、疑問符も付く。

 トランプ氏も強硬姿勢の一方で、減免に向けた交渉の余地には含みを持たせている。

 石破茂首相は、他国に先んじてトランプ氏と電話会談した。米政権側は「迅速に名乗り出たので、優先的に扱われる」としており、評価できる。

 ただ、日本が5年連続で最大の対米投資国であり、関税措置で日本企業の投資が減りかねない、との石破氏の説明もトランプ氏は気に留めていない模様だ。

 日本経済への打撃は避けられない。石破氏は交渉役に腹心である赤沢亮正経済再生担当相を起用した。米側が掲げる主要産業の再生に沿った対応も示す必要があるだろう。

 日本は安全保障上、米国との関係維持は不可欠だ。貿易交渉で対立すれば、日米の防衛協力にひびが入ると心配する声も出そうだ。トランプ政権が日本に防衛費負担増を要求している経緯もある。しかし貿易問題を安保政策と絡めて交渉するのは、筋違いだ。自由貿易と多国間協調の原則にのっとった交渉に徹してほしい。

 WTOへの提訴などを選択する場合には、欧州、アジア諸国の連携が鍵になる。20カ国・地域(G20)の閣僚会議やアジア太平洋経済協力会議(APEC)などを舞台にして米国に反論する道も探るべきだ。

 米国市場から締め出されないよう、自国の利益を優先し、理不尽な要求でも「受け入れた方が得策」と屈するようなことはあってはなるまい。各国を分断し有利に取引をしたいトランプ氏の思惑にはまるだけだろう。日本には各国の協調をリードする役割も求められている。

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