社説

[日米関税交渉]安易な妥協許されない

2025年4月19日 付

 トランプ米大統領の関税政策を巡る日米交渉が始まった。米側の関心は貿易から安全保障まで幅広い。日本政府は理不尽な要求に毅然(きぜん)と反論し、日米双方の利益につながる着地点を見いだせるかが焦点となる。世界の自由貿易体制を守るためにも、安易な妥協は許されない。

 トランプ氏にとっては、トップバッターに指名した日本から早期に成果を引き出し、各国との関税交渉に弾みをつけたいところだろう。初の閣僚協議へのサプライズ参加は、主導権を握りたい意欲の表れといえる。同時に、成果を急ぐ焦りものぞく。

 国・地域別の「相互関税」が株価や米国債価格の大幅な下落を招き、米政府は90日間の一部停止に追い込まれたばかりだ。

 対米共同戦線を築く狙いか、中国の習近平国家主席は東南アジアを歴訪した。徹底抗戦の構えを見せる中国への警戒感も、焦りの背景にありそうだ。

 日本側も交渉を停滞させられないのは同じだ。対米輸出の大半が対象となる相互関税はもちろん、自動車や鉄鋼、アルミニウムにも25%の追加関税が課されている。閣僚級を軸に重層的な折衝を重ね、スピード感を持って米国の関税政策を修正させなければならない。

 高関税に代わる産業対策として、日本企業の対米投資計画を示すことは大きな意味を持つだろう。歩み寄れる点を探り、譲れない部分があれば、粘り強く説得を続ける姿勢も必要である。

 担当閣僚として訪米した赤沢亮正経済再生担当相が関税引き上げは遺憾だと伝え、見直しを強く求めたのは当然だ。ただ、会見で「(自身は)明らかに格下も格下なので」と、トランプ氏と直接話ができたことに感謝を述べていては心もとない。政府を代表する立場を自覚してほしい。

 米国側はコメをはじめとする農産物の関税引き下げも求めてくるだろう。鹿児島にも大きな影響が及ぶことが予想される。自動車への関税を下げてもらうため、農産物で大きく譲歩するようなやり方は、農業者の理解を得られまい。

 トランプ氏は日本の防衛面の負担増にも言及した。今後、在日米軍駐留経費の負担増や米国製防衛装備品の大量購入を日本に求める展開も予想される。

 関税交渉に安保を絡ませようとするのは筋が違う。交渉の時期や枠組みを、明確に切り離す必要がある。防衛費増は米側と話し合うより先に、まず日本が政府内で検討するべきだ。

 これまでの通商交渉とは異なり、一方的に課された高関税を見直すよう求める異例の取引である。協議の土俵を明確にし、体制を整えた上で、石破茂首相のリーダーシップが不可欠となるのは言うまでもない。

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