社説

[再審制度見直し]改革機運逃さず実現を

2025年4月20日 付

 有罪が確定した裁判をやり直す再審制度の見直しに向けた動きが本格化してきた。袴田巌さんが無罪となった事件などを通じて、法の不備が浮き彫りとなったためだ。
 見直しを巡っては、超党派の国会議員連盟が今国会の法改正案提出を目指す。法務省も従来の慎重姿勢を一変させて先月、法制審議会に諮問した。
 ようやく高まった機運を逃してはならない。裁判の長期化によって無実の人が人生を奪われるのはあまりに理不尽だ。冤罪(えんざい)被害者の迅速な救済につなげるために、一刻も早い改革の実現が求められている。
 冤罪被害の救済が遅れる事例は、後を絶たない。昨年10月には静岡県一家4人殺害事件で確定死刑囚だった袴田さんが再審無罪となった。福井女子中学生殺害事件で服役した前川彰司さんの再審も確定、無罪の公算が大きい。それぞれ再審請求に42年、20年が費やされた。奪われた時間は、取り返しがつかない。
 焦点は、再審請求審での証拠開示のあり方や再審開始決定に対する検察の不服申し立ての是非などだ。再審を求める人に、長い年月と負担を強いてきた要因である。
 刑事訴訟法に開示について規定がないため、仮に無罪の方向となる証拠が眠っていても検察は弁護人の請求や裁判所の勧告にもなかなか応じようとしない。再審の開始決定が出ても抗告する。裁判所によって審理が極端に異なる「再審格差」も指摘されてきた。
 関連規定は1948年の刑訴法制定から一度も見直されていない。法改正へ署名や地方議会での意見書採択が相次ぐなど、世論は高まっていた。それでも法務省が慎重だったのは、三審制で審理を尽くした結果である確定判決の法的安定性を重視してきたからだ。
 超党派の議連は1年前に発足し、衆参国会議員の半数以上が所属する。日弁連と共同歩調を取り、裁判所の証拠開示命令の明文化や不服申し立ての禁止などを改正案の柱に据える。
 法務省は方針転換を余儀なくされた形だ。一方、議連との主導権争いで、逆に改正が先送りされかねないとの懸念も生じる。法改正は一般的に法制審が改正要綱を答申し、それに基づき法務省が法案を作成する。意見の対立点が多いと答申まで年単位とされる。
 審理の長期化の是正は、共通の認識のはずだ。体面にこだわり、議論が停滞するようなら刑事司法への信頼は損なわれるだけだ。
 79年に大崎町で男性の変死体が見つかった「大崎事件」は19日、最初の再審請求から30年になった。再審開始決定が3回出たにもかかわらず、いずれも検察官の不服申し立てによって取り消され、「開かずの扉」のままだ。見直しはスピードを要する。

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