選挙ポスターに品位保持規定を新設した改正公選法が成立し、5月2日に施行される。付則には交流サイト(SNS)上の偽情報拡散や、他候補の当選目的で立候補する「2馬力」行為の防止を念頭に、引き続き対策を検討し「必要な措置」を講じると明記した。
昨年の各地の選挙では、マイナスの影響が見逃せない事態が相次いで生じた。その対応に一歩踏み出したと言えるが、公権力による恣意的な規制につながらないかなど課題は多い。
民主主義の根幹を守るため、憲法が保障する「表現の自由」「政治活動の自由」とのバランスを取りつつ、公正な選挙を担保しなければならない。
法改正の機運の高まりは7月の都知事選がきっかけだ。ほぼ全裸の人物など候補者と無関係なポスターが多数張り出され、掲示枠を事実上売買する「掲示板ビジネス」が問題化した。
改正法は、ポスターに他人や他の政党の名誉を傷つけ、善良な風俗を害する内容の掲載を禁じた。特定商品を宣伝する営利目的は100万円以下の罰金。候補者氏名の明記も義務付けた。
偽情報や2馬力行為の問題は11月の兵庫県知事選で噴出した。政治団体代表が、出直しを期した前職を応援すると宣言して立候補。SNS上では候補者を巡る真偽不明の情報や誹謗中傷が拡散した。SNSで情報を得る有権者が増える中、投票行動に影響したとの指摘がある。民意がゆがめられたとすれば見過ごせない。
ただ過度な規制は表現の自由の制約に踏み込むことになりかねない。情報の真偽や違法性を速やかに認定するのも難しく、投稿内容が瞬時に拡散するSNSの取り締まりには実務上のハードルが高い。行政に監視を任せれば検閲になる。慎重であるべきだろう。
このためSNS事業者に対応を求める意見が出ている。閲覧回数に応じて得られる収益目的が過激な投稿の一因とされ、選挙期間中の利用制限や、偽情報を流すアカウントに対する責任の明確化などが挙げられている。
外国資本を含む営利企業が実効性のある対策に取り組むか不透明だが、事業者を通じて悪質な情報拡散を防ぐ手法は一考に値する。
改正法は今年6月の東京都議選や夏の参院選に適用される。与野党の協議会は偽情報と2馬力対策を優先的に議論する方針だが、両選挙までの法規制の見通しは立っていない。一方、鳥取県は立候補時に「自らの当選を目的とする」との宣誓書提出を求める独自策を決め、参院選での導入を調整中だ。
3月の千葉県知事選では一部候補者が県外で選挙運動を展開した。今後も従来想定していない事態が起きる可能性はある。国民の選挙への信頼を損なわないよう、国会は適宜有効な処方箋を見いだしてもらいたい。