政府の年金改革関連法案が来週にも国会提出される見通しだ。当初予定から2カ月以上の大幅な遅れである。
法案には中小企業の負担増などが含まれている。そのため自民党内に、夏の参院選での争点化を避けるべきだとする慎重論があったことが遅れにつながった。責任政党としての役割を放棄する動きだったと言わざるを得ない。野党も批判を強めていた。
少子高齢化で低下すると見込まれる年金の給付水準改善が法案の目的だ。改革の停滞は、長期にわたり全ての世代に影響が及ぶ。「老後の安心」のために、与野党には痛みを伴う見直しにも正面から向き合う熟議を求めたい。
改革の柱の一つは、会社員に扶養されるパートら短時間労働者を厚生年金に加入しやすくする適用拡大だ。「月収8万8000円以上(年収106万円以上)」の賃金要件や、「勤務先の従業員が51人以上」の企業規模要件を撤廃する。週の労働時間が20時間以上の人は年収を問わず加入することになる。
共働き世帯の増加など多様な働き方に対応するとともに、手厚い年金給付を受けられる人を増やす意義があり、大きな前進と評価できる。
新規加入で保険料徴収される労働者の手取りが減り、保険料を折半する中小企業の負担が増すことへの批判はある。対策の一つとして企業が従業員の保険料を肩代わりし、その分を全額還付する3年間の特例が設けられた。
ただ企業規模要件の廃止は、当初4年間かけて段階的に行う想定だったが10年間に延長。5人以上が働く個人事業所の厚生年金加入も当面限定される。勤務先の規模や業種によって加入できない理不尽を是正するのに、時間がかかり過ぎないかとの懸念が残る。
働いて一定収入がある高齢者の厚生年金を減らす「在職老齢年金制度」は見直し、満額支給となる対象を拡大する。「働き損」を解消して就労を促し、人手不足対策につなげるのが狙いだ。遺族厚生年金の支給に男女差がある不合理の解消も行われる。いずれも相応の財源をいかに確保するか、分かりやすく提示してもらいたい。
一方、将来の給付水準が3割低下すると試算される基礎年金(国民年金)の底上げが見送られたのは、大きな後退だ。国民年金だけに加入する人や、就職氷河期世代などが低年金に陥らないようにする対策の一環として改革の「本丸」と位置付けられてきた。
だが会社員らが加入する厚生年金の積立金を活用するため、厚生年金の受給額が一時的に減ると見込まれ、野党や自民の一部、加入者らが反発。法案提出を優先して軌道修正された形だ。
賃上げやキャリア形成が遅れた就職氷河期世代への配慮は重要だ。与野党には代替策を改めて議論する宿題が残されたと言えよう。